第347話

 陸雄達がアクアワールドに行っている間の時間―――。

 図書館での勉強会を終えた星川は―――自宅に帰ったばかりだった。

 実家の玄関にあるポストの中身を確認する。


(あっ、兄さんから手紙が届いてる!)


 手紙を取り出した星川はポストに鍵をつけて、家に入る。

 長男からの手紙を大学から帰ってきた次男に報告する。


「昭雄(あきお)兄さん―――文則(ふみのり)兄さんから手紙来てますよ」


 星川の言葉で―――次男の昭雄が冷蔵校のハムを食べながら食卓に移動する。

 星川も食卓のあるリビングで長男からの手紙を置く。


「兄貴のやつ警察学校から久々に手紙送ってきたな。警察官の道は順調なわけ?」


「成績に問題ないし、お父さんとお母さん元気にしてるかとか、僕が野球頑張っているかとか書いてますよ」


「俺のことは?」


 昭雄がラフな服装でハムを食べ終える。


「また囲碁打って同じくらい将棋指そうって書いてますよ。警察官になって希望地が地元らしいから―――初任給もらえたら豪華なご飯奢るって言ってますね」


「おお、そっか! まだまだ時間かかるだろうなぁ。あ、そうだ! 沫、母さんたちに伝えておいてくんない?」


 昭雄が星川に頼みごとをする。


「今日から大学の将棋囲碁サークルの友達の家に二泊するって、伝えておいてー」


 広めのリビングで次男の昭雄が星川に頼む。

 食卓の上にあるコンビニのおにぎりを星川が座って、食べる。

 一口食べて、昭雄に話す。


「スマホでメッセージ送れば良いんじゃないですか? この前昭雄兄さんが父さんに教えたんじゃないの?」


「いやいや、あの人黒電話すぎるわ。相変わらずスマホは電話と調べ物のネット以外使わないしさ。よくあれで株式会社の専務出来るよなー。社員200人いるって、飲んで自慢してたのにさ」


 昭雄がそう言って、冷蔵庫からアイスを取り出しに行く。


「部下の人がほとんどサポートしてるんでしょ? そればかりは仕方ないですよ」


 冷蔵庫からソーダアイスを昭雄が取り出す。


「警察学校行ってる兄貴も大学入ったばっかの俺もそうだけど―――もう八月だろ? 夏休み入ったばかりとは言え―――沫も高校慣れたか?」


「―――うん。野球部楽しいし、勉強は空いた時間で図書館に集まって勉強会してるんだ。アメリカの友達も出来たんだよ」


 昭雄がアイスを舐めて、腰に手を当てる。


「そっか―――そりゃあ良かったな」


 昭雄は星川の昔の手術を思い出したのか、嬉しそうな表情をする。


「んじゃあ、外出てる母さんと家に帰ったら父さんに伝えといてくれよ」


「解りました。こっちにメッセージ来てないけど、母さんは今日は商店街の主婦の人たちと飲んでるの?」


 星川がそう言って、テレビの前にあるソファーに座る。

 チャンネルを変えて、高校野球の番組を見る。


「ああ、みたいだぜ。俺にだけメッセ来てたわ。沫にも送ればいいのに、そういうことめんどくさがってるのいつものことだしな」


 星川が石川県の強豪校の特集番組に集中する。

 昭雄はカバンに衣服と下着を詰め込んで準備を終える。


「また兄貴と囲碁してぇなぁ。あっ、将棋ばっかやってんのかな? 国内じゃ競技人口そっちのが多いしな」


 番組を見ながら、星川が答える。


「手紙だと将棋の駒と盤が無いから、紙で将棋盤と駒を作ってたみたいだよ。それを詰将棋代わりに解いて―――空いた時間に一人で指しているみたいですよ」


「戦前、もしくは戦中の日本兵かな? ってか警察官になるとはいえ、娯楽無さすぎだろ。兄貴は囲碁は二子置かせたら、白番の俺と互角だけど―――将棋は向こうが飛車落ちでも滅法強いもんなぁ。お前も野球強くなれよ」


「問題ありません―――しっかりメジャー行きますから!」


「はっきり言うねぇ。言葉の壁とかライフスタイルとか全然違うんだぜ?」


 昭雄がスペアの鍵を持って、自分の財布の中身を確認する。

 星川が高校野球番組を見ながら、答える。


「大学野球になるかもしれないけど、渡米の為に英語はマスターしないとハイン君に色々教えてもらう予定です」


「囲碁や将棋の院生や奨励会から、プロになるのとは倍率が全然違うぞ? あっちはあっちで年齢規制あるけど、野球もとっても厳しい世界なんだぞ?」


 星川が黙って、テレビを見続ける。

 一応聞いているものと思い、兄の昭雄が言葉を続ける。


「だから保険で良い大学はしっかり合格しとけよ。合格する大学は県外でも全然良いんだからな」


「大学卒業したら渡米するんで大丈夫です! ドラフト漏れたら、アメリカ行きまからね。マイナーリーグやAAAくらいあっさり進んでメジャーリーガーになるんだから―――」


 星川がテレビから目を離さずに答える。


「そりゃまた強気なプランなことで―――あれ? メッセ来てるわ」


 昭雄がスマホを見る。


「沫、母さん友達の家に泊まって二次会やるってさ。ビーフカレーが冷蔵庫にあるから、温めて食べろってさ」


「お父さんは今日もレストランで食事して帰るの?」


「んー、そだな。母さんのメッセのログに父さんからの電話があって、仕事終わったら焼肉屋行くってさ。兄貴の手紙のことは明日話せば良いんじゃないか?」


「明日は父さん休みだし、手紙は食卓に置いとくから平気ですよ。昭雄兄さんもそろそろ友達の家に泊まりに行ったら? 友達待たせてるんでしょ?」


 準備を終えた昭雄がカバンを持って、玄関に向かう。


「おう、んじゃあ行ってくる。夏休み始まって家で一人になったからって、夜更かしすんなよ」


「―――解ってますよ。出る前に二階の部屋の電気消し忘れないでくださいよ」


「大丈夫だって、消してるから平気。じゃあな」


 昭雄はリビングを出て、外出する。



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