第329話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――三番―――セカンド―――九衛君―――」


 九衛が左打席に立つ。


(なるほどねぇ……しかし俺様や錦先輩には通じないぜ?)


 中野監督のサインを初めから知っていたのか―――早めにヘルメットに指を当てる。

 捕手がサインを送る。

 真伊已が頷いて、投球モーションに入る。

 リリース直後から縦に大きく落ち始める。


「そのパームボールは―――」


 九衛がタイミングを合わせて、スイングする。

 外角の真ん中にボールが飛んでいく。

 打者手前でボールが揺れながら―――さらに落ちる。


「―――俺様には通じない!」


 九衛のバットが軸でボールを捉える。

 カキンッという金属音と共にボールが高く飛ぶ。


「くっ! やはり九衛さんには通じないか―――」 


 真伊已が悔しげな表情をする

 右中間にボールが飛んでいく。

 九衛が一塁に走っていく。

 センターとライトの後方の中央にボールが落ちる。

 この瞬間―――フェアとなる。

 九衛が一塁を蹴り上げる。

 ライトがバウンドしたボールを拾って、送球する。

 ファーストのグローブにボールが入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 九衛は二塁に進塁できたが、あえてしなかった―――。


「俺様同様―――次に勝負してくれるかねぇ……」


 そうボヤいて、一塁を踏む。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――四番―――レフト―――錦君―――」


 錦が右打席に立つ。

 捕手が立ち上がる―――。

 中野監督はサインを送るのを中断する。


「やっぱ勝負しねぇか―――」


 九衛が退屈そうに打席を見る。

 真伊已が次々とボール球を投げてくる。

 そして―――四球目―――。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦が構えをを解く。

 九衛が二塁にランニングし―――錦も一塁へ向かう―――。


「チェリーと違うから、ないものねだりも出来んかな」


 九衛がぼそりとそう言って、二塁を踏む。

 錦も一塁を踏み終える。 ツーアウトで次の打者の番になる。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、松渡君―――」


 松渡が左打席に立つ。

 中野監督のサインを見る。


(芯に当てるように出来ればストレートかスローカーブを絞れ~? 了解~)


 松渡がヘルメットに指を当てる。

 松渡が構える。

 捕手がサインを送る。

 真伊已がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。


(彼は登板されたばかりだ―――様子見で行きますかね―――)


 松渡がスイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

 タイミングが合わずに振り遅れる。

 捕手のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに120キロの球速が表示される。

 捕手が返球する。


(ボールが追えてないようだ―――これならいけるぜ―――真伊已!)


 真伊已がキャッチする。


(ええ、ですが三球目からは念を押していきましょう)


 捕手のサインに真伊已が頷く。

 松渡が構え直す。

 真伊已がすぐにセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 松渡がスイングする。

 ボールが一個分下にバットを通過する。

 捕手のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに126キロの球速が表示される。


「ありゃりゃ~。ストレートだったか~」


 松渡がスイングを終えて、構え直す。

 ベンチの灰田がため息をつく。


「解ってたけど―――うちに代打が要ればなぁ。宮古島の沖縄マントヒヒが野手なら、坂崎に変われるんだけどなぁ」


「フッ、灰田。陸雄が打てるから―――五番なのが裏目に出たよな?」


「だよなぁ。延長されたら不味いもんなぁ」


 灰田と紫崎のやり取りに陸雄がムッとする。


「なんだよ! 俺の打率にケチつけるのと―――打席交代したはじめんがダメみたいな打率反比例やめろよ!」


「自分から申告していくのか……」


 灰田の突っ込みに陸雄がカッとなる。


「してねぇだろ! つうか、はじめんなら打てるだろ? 仲間を信じろつーの! 応援すんぞ」


「リクオ―――レガース着けてくれ」


「むぅ……ハインまで諦めんなよ。九番でアウトになっから、着けるけどさぁ」


「フッ、お前もなんだかんだで毒を吐くな」


 紫崎の言葉で駒島が汗をかきながら、プルプルっと震える。

 駒島の額がメンマのようにしわくちゃになっていた。

 一方―――打席では―――。

 捕手がサインを送り。真伊已が投球モーションに入る。

 リリース直後から縦に大きく落ち始める。


(パームボールを僕にも投げてきたかぁ~。へぇ~、高めに投げたけど~。本当に手前で大きく落ちるんだなぁ~)


 外角やや低めにボールが揺れながら落ちていく。

 打者手前でボールがさらに落ちる。

 松渡がそのまま見送る。 

 捕手のミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト! チェンジ!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに105キロの球速が表示される。

 ランナーたちがベンチに帰っていく。

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