第248話

「フッ、真伊已のパームボールは二種類あるのか―――リリースポイントの変化は同じだが平衡感覚は初見だと狂うだろうな」


 二塁の紫崎が楽し気にそう言った。


「紫崎だっけ? 四番打者がツーアウトの場面で余裕だな?」


 ショートの張元が聞こえていたのか、話す。


「フッ、九衞の奴も攻略法を錦先輩で探してますよ―――」


「―――っけ! 言ってろい! これ以上点は取れねぇよ」


 張元がそう言って、構える。

 捕手がサインを送る。

 

(まぁ、確かに相手は今のところ振ってない。一回だし、目が慣れてないっすね)


 真伊已が捕手のサインという意見に頷く。

 錦が構える。

 真伊已が投球モーションに入る。


(こっからは―――さっきまでの投球を意識させての―――)


 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。


(―――このコースっすよ!)


 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。

 錦がその瞬間―――。

 早いタイミングでフルスイングする。

 バットがボールのカーブの変化の位置ピッタリに当たる。


「―――なっ!」


 真伊已が驚いた時には―――芯に当たったボールがカキンッと言う金属音と共に―――。

 センター上空に飛んでいく。

 相手のセンターがボールを追っていく。

 ―――が、走るのを止めた。 

 無人の観客席にボールがスッと入ったからだ―――。

 観客がシンッと静まり返る。

 ―――ホームラン。

 それに気づくと歓声が沸き起こる。


「やったぁ! 流石は錦先輩。今日も絶好調ですね! ゲームを振り出しに戻しましたよ!」


 ベンチの星川がバッテインググローブを着けて、錦を見て―――喜んでいる。

 紫崎と九衞―――そして錦が順にランニングし、塁を次々と踏んでいく。

 マウンドの真伊已は今頃になって、心臓が強く響いていた。

 紫崎がホームベースを踏み―――二点目。


「パームボールは見切れていなかった。あの場面は誘い球のパームボールに投げてさえいれば―――」


 真伊已がマウンドで呟く中で―――九衞がホームベースを踏む。

 三点目―――。

 最後に打者の錦がホームベースを踏み―――四点目が入る。

 その中で中野監督が考え込む。


(真伊已のパームボールはスライダータイプに関しては、練習不足な選手もいる―――実戦で平衡感覚を失うボールに区別化の判断が問われる、か―――)


 深刻な表情の中野監督が考えを途中で口に出してしまう。


「パームボールに関してのみ、厳しい投手戦になるな―――」


 松渡や灰田達がその言葉を聞いて、気持ちを引き締める。


(俺が早めにナックルボールを会得してりゃ―――楽な流れになってたのかな?)


(問題は張元君と四番打者の打席かな~。ハインがそろそろ変化球を一つくらい解放させるとは思うけど~)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る