第237話

 ベンチの真伊已と張元が帰還したキャプテンを褒めたたえる。


「キャプテン―――大砲としてご苦労様です。投手として安心できる点差です」


「真伊已。次の打順が回った時も点を取りに行く。安心して投げてこい」


「―――はいっ」


 張元がキャプテンの肩を叩く。


「キャプテンが全打席本塁打なら今大会の錦の記録を塗り替えられますよ。もちろん俺も一番の仕事してきますけどね」


「頼もしい事だ。期待しているぞ、張元」


「うっす! 任してくださいよ」


 相手校のベンチが盛り上がる一方で―――。

 三塁側ベンチの中野監督がハインにサインを送る。

 ハインがそれを見て、頷く。


「トモヤ―――」


 ハインが灰田に声をかける。

 灰田が重い表情のままハインを見る。

 ハインが審判から貰ったボールにストレートの握りを見せる。

 灰田がそれを見て、ハッとする。


「わかった! いよいよか!」


 灰田の表情は複雑な心境だったが、そのサインでやる気のある表情に僅かに戻る。

 ハインが送球する。

 灰田がグローブでキャッチする。

 セカンドの陸雄が声援を送る。


「投手でホームラン打たれないベテランの未経験者はそんないねぇ! 灰田、仲間を信じて投げ込もうぜ!」


「おおよっ! こっからいくぜ!」


 灰田のやる気が上がっていく。


「淳爛高等学校―――五番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 五番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。

 灰田が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 相手の打者がフルスィングする。

 だが―――バットを掠めない。

 ミットに収まると同時に―――バットを空振り終える。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ストレートが外角のストライクコースにしっかりと入る。

 スコアボードに119キロの球速が表示される。


(打てると思ったけど、ボール一個分ズレてたか―――)


 相手の五番打者が構え直す。

 ハインが返球する。



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