第238話

 グローブで灰田がキャッチする。

 灰田が中野監督をチラリと見る。

 ベンチの中野監督が頷く。


「そうか―――そろそろか。朋也様、最初は軽く投げてくると良い」


 ハインがサインを送る。

 灰田がゆっくりと構える。

 頷いて、投球モーションに入る。

 すぐにボールが指先から離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。


(チョコボールか―――タイミング合わせて―――)


 五番打者がフルスイングする。

 が、ただのストレートでは無かった。

 ボールが打者手前で右に曲がりながら落ちる。

 打者が空振り、ハインのミットに収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。


「カーブだと―――!? 速球派じゃねーのかよ?」


 相手の打者が声を漏らす。


「君、試合中だぞ。私語は慎みなさい」


 審判に注意され、打者がバットを戻す。

 スコアボードに118キロの球速が表示される。

 ハインが返球する。

 灰田がキャッチする。


(今までのストレートはこの為の調整だったってか―――ハインの野郎、味な事するぜ)


 灰田ニッと笑って、構える。

 ツーストライク、ノーボールの場面―――。

 五番打者がバットに僅かに力を入れて、構える。

 ハインがサインを送る。


(くそぅ……まだ変化球あるんじゃねーのか? だが、あいつは速球派だろうし、ヤマ張っとくか―――)


 相手の打者の思惑の中で―――灰田が投球する。

 指先からボールが離れる。

 中央の上にボールが飛んでいく。

 相手の打者が上向きにスイングする。


(誘い球じゃない。このストレート―――打てる!)


 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。

 

(またカーブだと!)


 打者がそう持った時にはボールはミットに収まっていた。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに118キロの球速が表示される。


「よっしゃあぁー!!」


 三球三振―――。

 投手の灰田が小学校以来―――マウンドで久しぶりに吠えた。




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