第233話

(ハインは前半直球中心で組み立てるしかねぇのかな? カーブもあんだけど、いつ使うんだ?)


 灰田がそう思う一方で―――ハインは考え込む。


(今はトモヤの調子を作って、無意識に制球力を高めていくしかない。あまり難しいコースは投げれないな)


「淳爛高等学校の攻撃―――二番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 二番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。


(えっ! んなことで良いのかよ?)


 灰田がぎこちなく頷く。

 ベンチの中野監督が腕を組んで、ジッと試合全体を見る。


「なるほど、ハインは朋也様にまずメンタルをこの回で鍛えさせるわけか。チームを巻き込むえげつないやり方だが、後々良いお釣りがくるな」


 古川がスコアブックを書く中で、松渡がその言葉に反応する。


「中野監督~。陸雄の肩を作らない状況で勝てるんですか~?」


「安心しろ。岸田は本番に強い。これは岸田もぶっつけ本番で鍛える良い機会でもある」


「見るからに調子悪そうですけどね~。あっ、そろそろ投げますね~」


 松渡の言葉と同時に灰田が投球する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。

 二番打者がタイミングを合わせて、スイングする。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが三遊間に飛ぶ。


「初球打ちっ!? 紫崎! 坂崎! 頼む!」


 灰田がハインの代わりにそう言い放つ。

 そして頭の位置にの高さに飛ぶボールを目で追う。

 二番打者が一塁に向かって、走る。

 坂崎が捕りにいくが、グローブの先端にぶつける。

 軌道が変わったボールがショート正面にバウンドする。

 張元が三塁に向かう中で、サードの坂崎は慌ててサードに向かう。


(間に合わんな。ひとつか―――)


 捕球した紫崎が一塁に送球する。

 ファーストの星川が一塁を踏んで捕球体勢に入る。

 星川が捕球する頃には一塁を二番打者が既に蹴り終えていた。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


「ノーアウトでランナー二人か……きっついな」


 そう言った灰田が夏の汗とは違う―――危機の汗を顔に流す。

 ランナーが張元が三塁に―――二番打者が一塁を踏んでいる。


「灰田君―――落ち着いていきましょう!」


 星川がそう言って、灰田に軽く投げる。

 ボールをグローブで受け取った灰田が無言で頷く。



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