第229話

 三塁側のベンチに駒島達が戻っていく。

 同時に中野監督がベンチから出る。


「先攻の淳爛高等学校―――ノックをお願いします。時間はボール回しを含めて七分です」


 しばらくして球場にウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 中野監督の後ろでメンバー達が相手校のノックを見る。


「やっぱり先発は真伊已のようだな。完投狙いで勝ちに行く作戦か―――」


 中野監督の言葉でメンバーに僅かに緊張感が生まれる。

 ノックを見る限り、隙が無いように思えた。

 陸雄は料理のせいで胃が痛く―――コンディションは不調に近かった。


(ううっ、胃が回復するまでに灰田の後で安定して投球しなきゃダメだな)


 相手校のノックが終わる。


「―――後攻の大森高校、ノックをお願いします。時間はボール回しを含めて七分です」


 ウグイス嬢のアナウンスと共にメンバーが守備位置に移動する。 

 すぐに守備位置について、捕球体勢に入る。

 中野監督がノックをそれぞれ綺麗に行う。

 各メンバーが捕って、投げ込んでいく―――。

 その中で駒島のみボールが回って来るも取り損ねる。


「「したっ!」」


 ボール回しが終わった大森高校のメンバーが―――帽子を脱いで、一礼する。

 戻っていく中で―――陸雄はハインに話しかける。


「待たせたな―――ハイン! 俺達の野球を再開しよう」


「リクオ。オレ達は試合で問われている。敗れていった者たちが夢見た甲子園に行くに値するかどうかの―――バッテリーとしての資質が―――」


「なら証明しよう。俺の投球とハインのリードで勝利の道をみんなに示すんだ!」


 後ろで聞いていた灰田が一声かける。


「陸雄。その前に俺がハインと先発で投げてくるぜ。はじめん含めた俺達三人の投球で勝とうや」


「ああ、そうだな。頼んだぜ。うっ!」


 陸雄が腹を抱える。


「リクオ。どうかしたか?」


「いや、ちょっと胃が痛んだだけだ。休めば戻るから、平気、へーき」


 さらに後ろを軽く走る星川が―――観客席を見る。

 視線の先には大森高校の同級生たちが多く来ていた。


「吹奏楽部は来ていなかったのが、残念ですが決勝まで行けば演奏してくれるでしょうね」


 同じ位置に走っていた紫崎がそれを聞いて、フッと笑う。


「フッ、決勝と言わず四回戦から演奏させてやりたいくらいだな」


 ベンチに戻り、ミットやグローブを外していく中で―――九衞も話に参加する。


「俺様達の高校の人数よりも―――他校の偵察が多いのが、なんとも高校野球らしいな。坂崎ビビんなよ?」


 グローブを外した坂崎がぎこちなく返事をする。


「だ、大丈夫だよ。に、二回戦で慣れてきたから今回はちゃんと守れるよ」


 ベンチから出たメンバーが円陣を組む。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る