第228話

「灰田~。陸雄が今日は何故か調子悪いし、僕はこの前の試合で完投したしさ~。また完投はしてもいいけど、出来れば次の試合までに温存したいんだ~」


 申し訳ない松渡の表情に―――灰田が肩に少し力を入れる。


「わーたよ。みんな、あんま期待すんなよ」


「チンピラ野郎。大いに期待している。盛大に完全試合してくれ」


「途中交代だから出来ねーつーの! 話聞いててワザと言ってるだろ!」


「がっはっはっ! まぁ、チンピラ野郎が投げている間は―――お前の野手ポジションは俺様が守ってやるから心配すんな」


「お、おう……頼むわ」


 意外だったのか素直な灰田にみんなが笑う。


「な、何だよ!? 俺だって真面目になる時はあるつーの!」


「フッ、チームメンバーとして、ようやく馴染んできたな」


 紫崎が後ろからからかうように楽し気に話す。


「灰田が投げている間は―――九衞のセカンドは俺が守るから援護安心しとけよ」


 陸雄がそう言って、灰田を軽く小突く。

 チームが初登板になるブランク持ちの灰田の調子を整えているようだった。

 いつもは陸雄に突っかかる九衞も静かに笑んで、歩く。

 ハインは無言で配球のシュミレートを脳内で組んで、歩いている。

 坂崎はそんな冷静な捕手の姿に黙って息を呑む。

 そのまま各高校が試合会場に入っていく。



 市民球場の中―――。

 三塁側ベンチにユニフォーム姿の中野監督が椅子に座る。

 同じく記録係としてマネージャーの古川がスコアブックを開いて、机に座る。

 バックネット裏に各教諭と主将が審判の前で集まる。

 駒島と相手チームの三年生の主将が先攻後攻の取り決めをする準備である。


「それでは始めてください―――」


 そう言った審判が合図をする。

 それと同時に駒島と相手校のキャプテンがじゃんけんを始める。


(昨日はウェブラジオ番組の現役美少女女子高生イキリ散らしパワーのモルル―ンが、じゃんけんにはグーが良いだぁよ―――と言っていたな―――!)


 駒島はそう思い―――グーを出す。

 チョキを出した相手校の主将が冷や汗を流す。


「大森高校、先攻後攻を決めてください」


 審判の言葉と主に―――駒島が中野監督に言われた通りの指示に従う。


「うむ、後攻で一つ頼もう。高校だけに―――な!」


 一瞬だけ静かな静寂の後に審判が咳払いする。

 後ろの鉄山先生が駒島に話す。


「駒島―――メンバー表を早く渡しなさい。次の試合の遅延行為になる」


「ヌッ! メンバー表です」


 相手校の主将と―――焦った駒島が審判に今日の試合のメンバー表を渡す。



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