第184話

「あははっ、俺出てないけどな。誰から聞いたんだ? 女子ネットワーク早えよなぁ」


 清香が鞄に全ての教材を入れて、閉じる。


「同じクラスの柊木さんから聞いたよー」


「柊木って……ああ、あの人か。俺って女子とは話さねーから、よく分かんねーけど、確か保健室に運んでくれたんだっけ? お礼言っとかなきゃなぁ」


 自信なさげに陸雄は、今日の野球部コミュニティでの松渡や紫崎から得た情報で話す。


「うん。そうだよー。保健委員の柊木さん。運んだのは男子の久米くんだよ。柊木さんはお礼よりもマネージャーとして入りたいかも言ってたよー」


「久米が? 教室で倒れた俺を担いだから、力はそれなりにあっけどさ」


「もー! 違うよ! マネージャーとして入りたがってるのは、軽音部の久米君じゃなくて―――柊木さんだよ」


 清香が頬を薄ピンク色に染めて、手を振りながらプンスカっと怒る。


「ははっ! わりぃ! でも期末テスト終わったばかりの時期に入ったとしても、ウチの部はハードだぜ?」


 清香が落ち着いて、鞄を持つ。


「観客席で試合見てたんだって、ちょっとだけ入りたがってたみたいだよ。まだ入るかどうか悩んでるって言ってた」


「なら、無理に入らせるもんじゃねぇだろ。マネージャーの仕事って大変だしさ。ほら、家まで送るよ」


「うんっ♪ 明日頑張ろーね!」


 清香と一緒に自室を出て行く。

 陸雄が階段を降りながら、マネージャーの仕事を考える。


(つっても、古川マネージャーはほとんど仕事放棄して、俺らの投球指導やってるしなぁ)


 そう思いつつも清香の前では野球の実態を告げずに、家まで送った。

 帰り道で陸雄は夜空を見上げる。

 綺麗な星空を見て、ふと呟く。


「期末テスト終わったら、夏休み始まるまであっと言う間か―――そしたら残りの夏は甲子園までの試合しかねぇ」


 星空の景色に抽選会の時の乾の顔を浮かべる。


「勝ち続ける! 甲子園にだって辿り着いてみせる!」


 そう言って、自分の家のドアを閉めた。



 ―――期末テスト初日。

 クラス中は異様な空気に包まれていた。

 全員がノートや教科書、問題集などを見る。

 誰とも口を交わさずに話さない。

 灰田も松渡も紫崎も集中している。


(中間テストもそうだったけど―――この期末試験でも受験の闇を見た気がするぜ)


 そう思いつつも陸雄もテスト前の最終確認を済ませる。

 最初の科目の教師がやって来る。

 英語の斎藤先生だった。


「ヘーイ! グッモーニン! ガール&ボーイ! いよいよ避けて通れぬハイスクールスチューデントロードが現れました。そのロードは即ち期末テストデース!」


 席に着いた生徒が押し黙って、筆記用具を出しまま座る。


「オオウ! ユー達はクールなのかドライなのか―――どっち南大門? オーケー! フリスビーのように綺麗なラインを描いて、今からテスト用紙を送りマース!」


 斎藤先生のパーマがゆらゆら揺れながら、前の席の学生達にテスト用紙を配っていく。

 生徒たちがテスト用紙を後ろに事務的に配っていく。


「テスト用紙に全て書き終わったからと言って、試験中にガール達は先生のダンディさに見とれてはイケませんよー。前にも言いましたが―――本場アメリカンなワイフがいるから浮気出来ませーん」

 

 プリントを裏返して、生徒たちがジッと無言で待つ。


(この感じって、試合とは違った緊張感あるよなぁー。おっと―――集中せんといかんなぁ)


 陸雄がシャープペンシルをギュっと握る。



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