第176話




 整列する中で―――戸枝がまだ声を殺して泣いている。

 列の先端に立つ戸枝は涙を流しながら前を見る。

 ジェイクはどこか楽しそうに微笑する。

 ジェイクの中で―――戸枝はこの敗北をきっかけに今以上に強くなるっと確信していた。

 その未来を想って、微笑していた。

 西晋高校の選手たちは下を向いて黙りこくる。


「「ありがとうございました!」」


 大森高校と西晋高校の全員が一礼する。

 ハイン達が観客席前に移動する。

 着いたと同時に、一同が帽子を脱いで一礼する。


「応援―――ありがとうございました!」


 観客から拍手が降り注ぐ。

 観客席にお礼を言った後に―――選手たちがベンチに戻っていく。

 観客席で試合を一部始終見ていた女子高生がジッと大森高校の野球部を見る。

 柊木心菜(ひいらぎここな)だった。

 

(ウチの野球部ってこんなに強いんだ……一回戦はニュースだけで見なかったけど、もしかしたらもしかして―――私の恋人とマネージャーとして再開できるかも)


 彼女はそう思い、胸に両手を当てる。



 観客たちが帰っていく中で―――何人かの高校生が席に着いたまま会話する。

 その中には淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)の学生がいた。


「おい、監督と真伊已さん達に報告だ。大森高校のコールド勝ちだってこと伝えとけ」


 学生の一人が話す。

 野球部の一年生のようだった。


「お前、スマホの電池ヤバいのか? じゃあ俺が送っとくわ。次の三回戦の相手は真伊已さんの予想通り大森高校だったみたいだな」


「おう! そんじゃ俺はカメラ回してるおばちゃん達に止めるように言って来る」


 淳爛高等学校の一年達はそれぞれ席から移動していく。

 他の高校の野球部関係者たちも慌ただしく報告や偵察をしていたようだった。



 試合終了後の球場の外―――。

 大森高校の集合場所近くでジェイクと戸枝がハイン達に話しかける。


「これ―――千羽鶴。一回戦で俺らに負けた奴のも入ってる」


 涙で目を腫らした戸塚が千羽鶴を紫崎に渡す。


「フッ、感謝する。負けた奴はもう次に向かって練習を始めてる。お前達も頑張れよ」


「―――ああ。わかってるよ。お前らは強い。甲子園絶対に行けよ」


 九衞が会話に入り込む。


「俺様がお前の涙の為にも行ってやる」


 調子を取り戻したのか、戸枝は試合が始まる前に戻っていく。


「そんなこと言われるとホカホカしちゃうだぁよぉ! つーか、年上にナマ言うんじゃねーよぉん」


 星川も会話に参加する。


「戸枝さん、次に当たる時はシンカーをツーベースヒット出来るようにしておきますよ」


「おうよ! 俺も変化球のキレと球速上げないとな。敬遠無しにするくらいな」


 ハインも会話に参加する。


「ツヨシ。負けたからと言って、メンバーを責めるなよ。好きなだけじゃ野球は出来ない」


 戸枝が少し黙って、下を向いて話す。


「そうしてぇけど、ジェイク以外時間が欲しいわ」


 灰田も会話に参加する。


「あんたこっから強くなってくると思うぜ。来年の夏に当たることがあったらよろしくな」


「ああ。しっかり鍛えてくっから楽しみにしとけ」


 戸枝がガッツポーズを取る。





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