第165話
「ハジメ、次の回からフォークボールの数を減らす」
「やっぱり打たれ始めた事気にしてたんだね~。別に良いけど~」
「六回からストレートとシュートを中心に組み立てていく」
ハインの説明が終わる頃に防具が付け終わる。
「ハインの言う通りだ。相手の監督はフォークボール対策をサインで出すようになってる。即座に上位打線が打てるようになってるのは、今年弱体化したとは言え流石は野球伝統校と言ったところだ」
中野監督がそう言って、ミットをハインに渡す。
「序盤はどうにか抑えられたんですけどね~」
松渡がそう言って、グローブを着ける。
「松渡。これからの相手は偵察もしてくる。今あるデータだけでは次からは厳しいことも十分ありうる。ハインに配球などを任せっきりだが、マウンドでお前自身が気づいたこともあればタイムを取っても良いからハインと相談しろ。厳しいときは伝令くらいはこちらも出せる」
「中野監督がそう言うなら、そうします~」
「次の試合からは投手を分担で使うこともある。練習時間が終わった後に相手校の研究も含めて、三人分の配球を事前に考えていくぞ」
「解りました。ナカノ監督」
「それとな―――」
中野監督がハインの手を握る。
「ナカノ監督? 他に何か?」
「バッテリーと監督では役割が違うが、皆が考え決断していかなくてはならない。当たり前の積み重ねから発見は生まれる。信頼されるために私も考える。困った事があれば相談しろ。選手としても学生としてもな」
中野監督は真剣な眼差しでハインを見て、そう答えた。
「―――はい」
ハインは静かに頷いた。
※
グラウンド整備が終わり―――六回表が始まる。
「六回表―――西晋高校の攻撃―――八番―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
西晋高校の監督がサインを送る。
八番打者が頷いて、打席で構える。
「―――プレイ!」
審判が宣言する。
ハインがサインを送る。
松渡が頷いて、投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
真ん中に早い速度でボールが飛んでいく。
(初球はフォークボールじゃない―――ストレート! 打てる!)
八番打者がバットをスイングする。
しかし打者手前でボールが左に曲がっていく。
僅かに落ちたボールがバットの先端下に当たる。
「くっ! まっず!」
カキンッと言う金属音と共にボールがバウンドする。
慌てた打者がバットを捨てて、一塁に走る。
ピッチャー前のゴロになり、マウンドから松渡が走る。
すぐさまグローブでボールを拾い、星川に投げ込む。
打者が塁に着く前に、星川のグローブに捕球される。
「―――アウト!」
塁審が宣言する。
バックスピン側のシュートで八番打者を初球で処理した。
星川が松渡がマウンドに戻って来たのを確認して、返球する。
松渡がボールを受け取る。
「西晋高校―――九番―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
九番打者が西晋高校の監督がサインを確認する。
頷いた後に打席に立つ。
ハインがサインを送る。
松渡が頷いて、投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
内角高めにボールが飛ぶ。
打者がバットを振りそびれる。
ハインのミットにボールが収まる。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに131キロの球速が表示される。
ハインが返球する。
松渡が捕球する。
一息ついて、構え直す。
セカンドの九衞が腰に手を当てる。
それを紫崎が一瞥して、声をかける。
「フッ、暇なのは解るが守備中だぞ」
「上位打線まではボールは飛んでこねぇよ。あいつなら抑える」
九衞が腰に掛けた手を離す。
紫崎が一瞥して、打席を見て話す。
「フッ、その根拠はハインのリードが優秀なのか―――それとも松渡の投球を信頼してるのか……果たしてどちらから出たお前の言葉かな?」
九衞がそれを聞いて、軽く笑い飛ばす。
その後に打席を見つめて構える。
「さぁてね。案外両方かもよ? だけど、あんまだらしねぇヒットばかり続けたら、俺様がベンチで喝を入れるかもしれんぜ?」
「フッ、スパルタもほどほどにな―――そろそろだぞ? だらしないことがあるかもしれん。しっかり構えとけ」
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