弱小野球部の名誉挽回

第166話

　ハインがサインを送る。

　松渡が頷いて、投球モーションに入る。

　相手の打者が何かを狙っているようにバットを短く持つ。

　指先からボールが離れる。

　打者がタイミングを合わせて、スイングする。

　打者手前でボールが左に曲がっていく。

　バットの先端をかすめて、ハインのミットにボールが収まる。

「―――ストライク！」

　球審が宣言する。

　スコアボードに１２５キロの球速が表示される。

　バックスピン側のシュートだった。

　ハインが返球する。

　松渡がキャッチして、すぐに構える

　打者が少し間を置いて、バットを構え直す。

(は、ハイン君の配球を考えても―――速球中心に見せかけてさりげなく変化球は入れてる)

　サードの坂崎が構えながら、捕手の立場として考える。

(く、九月の為に実戦の中でハイン君から技術や戦い方を盗んでいかなくちゃいけない。ぼ、僕だって捕手として積み重ねなきゃいけないんだ)

　プレイが再開され、ハインがサインを送る。

　松渡が頷いて、投球モーションに入る。

　指先からボールが離れる。

　内角低めにボールが飛んでいく。

　相手の打者がボール球と思って、見逃す。

　打者手前で左に曲がりながらボールが沈んでいく。

　ハインのミットにボールが収まる。

「―――ストライク！　バッターアウト！」

　球審が宣言する。

　スコアボードに１２８キロの球速が表示される。

　九番打者が声を漏らした後には、三球三振で終わる。

　ハインが返球する。

　ツーアウトになった時に西晋高校の監督が疑問を持ち始める。

(フォークボールを投げてこない？　ならば、上位打線にストレートに絞らせるか)

　その間に松渡がボールをキャッチする。

「―――西晋高校、一番―――」

　ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

　一番打者が打席に立つ。

　西晋高校の監督がサインを送る。

　今までとは違ったサインに、打者が僅かに遅れて頷く。

　バットを肩に当てて、構える。

(内角打狙いか―――まるで見せつけるようだな。ならば―――)

　ハインがサインを送る。

　松渡が頷いて、投球モーションに入る。

　指先からボールが離れる。

　ボールは内角真ん中に飛んでいく。

　打者がじっとボールを見て、見送る。

　打者手前でボールが左に曲がりながら沈んでいく。

　ハインのミットにボールが入る。

「―――ストライク！」

　球審が宣言する。

　スコアボードに１２５キロの球速が表示される。

　ハインが返球する。

　松渡がキャッチする。

　相手の打者が肩からバットを離して、構える。

　ハインがサインを送る。

　松渡が頷く。

　そしてややテンポをずらして、投球モーションに入る。

　指先からボールが離れる。

　外角高めにボールが飛ぶ。

　打者が振る気配を見せずに見送る。

　ハインがボール球一個分ズレたコースにミットを動かす。

　そのままミットにボールが収まる。

「―――ボール！」

　球審が宣言する。

　スコアボードに１２７キロの球速が表示される。

(二球とも振ってこないか―――同じ速度で投げさせたから、変化球との判別はつきにくいだろう)

　ハインが返球する。

　松渡が捕球して、ゆっくりと構え直す。

　相手の打者がじっとバットを短めに持って―――構える。

　ハインがサインを送る。