第152話


 一塁にいた坂崎がガッカリする。


「な、中野監督から盗塁の指示出てなかったけど、僕の足が遅いの気にしてたのかな?」


「大森高校、一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 ハインが右打席に立つ。


「―――プレイ!」


 審判が宣言すると同時に捕手が立ち上がる。


「敬遠、か―――」


 ハインがバットを下ろす。

 捕手が左打席の位置まで移動する。

 戸枝がゆっくりとボールを投げていく。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 観客たちの声援がやや小さくなる。

 同じコースにボール球が次々と投げられていく。

 そして四球目―――。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 ハインがバットを捨てる。

 戸枝が帽子を深く被って、マウンドの上で俯く。

 ハインが一塁にランニングし、坂崎が二塁に移動する。

 ネクストバッターサークルの紫崎が打席に移動する。


(フッ、坂崎じゃ俺がスタンドギリギリにヒットしたとしても、三塁が限界だ。ホームラン狙いで勝負を決意するしかないな)


「大森高校―――二番、ショート―――紫崎君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 紫崎が右打席に立つ。

 捕手が座り込み―――ミットを構える


(ほう、俺には敬遠せずに勝負か―――フッ、ハインより脅威ではないと評価されているらしいがその幻想を殺してやる)


 紫崎が中野監督を見る。

 中野監督がダミーサインを送る。

 紫崎がヘルメットに指を当てる。

 西晋高校の監督が気づく。


(あのサインはライト手前に打てという意味じゃないか? さっきと同じサイン……間違いない)


 監督が捕手と戸枝にサインを送る。

 横目で見ていた捕手が頷く。

 ファーストが手を大げさに上げる。

 後方の外野手達が右側に移動していく。

 紫崎はそれを見て、ニヤリとした。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。

 捕手がサインを送る。

 戸枝が頷いて、セットポジションで投球する。

 指先からボールが離れる。

 ボールは外角やや低めに飛んでいく。

 紫崎が振ろうとして、止める。

 打者手前で減速しながらボールが沈んでいく。

 ミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ボール球の判定にも見えたが際どいコースだったのでストライク扱いになった。

 スコアボードに105キロの球速が表示される。

 捕手が返球する。

 戸枝が受け取り、一呼吸する。

 そのまま捕手がサインを送る。

 その間に紫崎が打席のやや右の位置に移動する。

 スパイクが白線から半歩の位置まで踏み込む。

 気付かぬ戸枝が頷いて、同じ投球モーションに入る。

 紫崎がじっと観察する。

 戸枝の指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛ぶ。

 

「フッ、そう来ると思ったぜ!」


 紫崎が内角打のスイングを行う。

 内角高めのストレートがバットに当たる。

 バットの軸に当たったボールは―――カキンッと言う金属音と共に飛んでいく。


「―――何っ? 当てられただと!」


 戸枝が声を漏らす。

 ボールはサード上空を越えていく。

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