第145話


「―――まったく、次は紫崎が打つんだ。私もサインを送るんだから、頭切り替えるぞ」


 中野監督の言葉でメンバーが試合を見る。

 灰田だけが納得しない様子ででっかいため息をついて、試合を見る。


「大森高校―――二番、ショート―――紫崎君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「フッ、なにやらベンチが騒がしかったが―――試合の良いムードは崩れない雰囲気に見えたな」


 紫崎が楽しそうに独り言を言って、右打席に立つ。

 捕手が立ち上がる。


「ん? フッ、ハインの奴。シンカーどころか全部の球でも封じたか?」


 戸枝が捕手のボール球コースに投げていく。

 ボール球が四球続く。

 中野監督がそれを見て、サインを中断して腕を組む。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 紫崎がバットを捨てて、一塁に歩く。


「大森高校―――三番、セカンド―――九衞君―――」


 九衞が左打席に立つ。

 捕手がまた立ち上がる。

 中野監督がサインを止める。


「―――あぁ? 俺様にもか?」


 戸枝がボール球に投げていく。


「ちょっと、バントして球数増やしちゃうか」


 三球目のボール球をバントの構えでストライクにさせる。

 戸枝が舌打ちする。

 次の球もボールになる。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 九衞がバットを捨てて、一塁にランニングする。

 紫崎も二塁に向かう。

 観客がざわざわっと騒ぎ出す。


「大森高校―――四番、レフト―――錦君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 錦が右打席に立つ。


(紫崎。またボール球が続くんなら、お前いっそ盗塁すっか?)


 九衞がサインを紫崎に送る。

 紫崎が首を振る。

 捕手が立ち上がる。

 またも敬遠だった。

 観客からヤジが飛ぶ。


「そんな戦い方して、ピッチャーとして恥ずかしくないのかよ!」


「このヴァカが! 勝負しろよ! 男じゃないんだよ!」


「情けない。あの大城と駒島の奴らと同レベルじゃないのかぁ!?」


 ボール球を投げていく中でヤジを黙って聞く。


(………ちっ! トーシロ老害共が……!)


 戸枝が歯ぎしりして、第四のボール球を投げる。


「―――ボールフォア!」


 球審が宣言する。

 錦がバットを捨てて、一塁に行く。

 九衞が二塁。

 紫崎が三塁で満塁となる。


「大森高校―――五番、ファースト―――星川君―――」


 星川が左打席に立つ。

 捕手が座り込む。

 西晋高校の監督がサインを送る。

 戸枝が合図で後ろ髪を大げさに掻き上げる。

 外野手達が前面の位置に移動する。

 中野監督が腕を組むのを止める。


(なるほど、点を最小限に抑えに来たか―――だが、少し遅かったようだな)


「僕には挑むんですか―――あははっ、ちょっとムカつきましたね。お礼に打って見せますよ」


 中野監督がサインを送る。


(カーブかシンカーどっちかに絞って打てですね―――了解です!)


 星川がヘルメットに指を当てる。


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