第138話


 捕手が返球する。

 戸枝がキャッチして、息を整える。


(この打者で調子を整えて、次の投球回に備えよう)


 捕手のサインを見て、戸枝がゆっくり頷く。

 セットポジションで投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 真ん中やや低めにボールが飛んでいく。


「ここだ―――フンッヌ! フンヌ!」


 駒島がバットをフルスイングする。

 バットはボールの上に空振りし、ミットに収まる。

 またもストレートだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに109キロの球速が表示される。


「だんだんツヨシの球速が戻ってきたな。コントロールも戻ってきている。この回ではこれ以上点は望めないな」


 ネクストバッターサークルにいるハインが座り込んでじっと戸枝を見る。


「次の配球はおそらく外角低めか?」


 捕手のサインに頷いた戸枝を見て、ハインはそうぼやく。

 頷いた戸枝がセットポジションで投球モーションに入る。

 指先からボールが離れ、ハインの言う外角やや低めにボールが飛んでいく。

 駒島がバットをフルスイングするが、タイミングがまったく合わずに空振りする。

 パンッという音共にミットにボールが捕球される。


「―――ストライク!  バッターアウト! ―――チェンジ!


 球審が宣言する。

 スコアボードに113キロの球速が表示される。

 ハインが立ち上がり、ベンチに戻る。

 二回裏が終わる。



 三回表―――西晋高校の攻撃が始まる。

 点差は8対2で大森高校の優勢。

 皆が守備位置につき、松渡がマウンドに立つ。

 松渡がサードの坂崎を見て、ニコッと笑顔を見せる。

 緊張をほぐそうとした彼なりの気遣いだった。


「三回表―――西晋高校の攻撃、一番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 相手の打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、独特のサウスポーフォームで投げ込む。

 指先からボールが離れ、内角高めにボールが飛ぶ。

 相手の打者が見送る。

 打者手前でボールが真っ直ぐ下に落ちる。

 フォークボールだった。

 ハインのミットに収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが返球する。

 スコアボードに126キロの球速が表示される。

 松渡がボールをキャッチする。

 相手の打者がバットを下げて、一呼吸する。


(やはり早いな。前の回よりも球速を上げている。肩が温まってきた頃か?)


 そしてバットを上げて、構える。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角真ん中にボールが飛ぶ。


(ストレートにヤマを張って正解―――だな!)


 相手の打者がスイングする。

 バットの軸にボールが当たる。


「打たれた! カイリ!」


 ハインが立ち上がって、声を上げる。

 打球はサード方向に飛ぶ。

 相手の打者が一塁に走る。

 サードのやや手前でバウンドしたボールを坂崎が捕球する。

 送球の態勢を取って、ファーストに投げる。

 星川が塁を踏んで捕球体勢に入る。

 ボールが飛んでくる間に相手の打者が塁を踏み終える。

 星川がボールを捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 相手の監督が腕を組みなおす。


「まずは一塁。ここからウチの上位打者が点を取りにいく」


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