第128話


「西晋高校―――七番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 左打席に打者が立つ。

 内野手がやや前進守備になる。

 一塁の戸枝がリードを大きめに取る。

 二塁も同じ幅でリードを取る。

 ハインが無視してサインを送る。

 打者がバントの構えを取る。


(どう見てもバスターじゃないだろうな~。腰低めの姿勢になってるし~)


 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛ぶ。

 相手の打者がやや上に姿勢を上げる。

 ボールが三個分落ちていく。

 バットのやや下にボールがぶつかる。

 カコンッという鈍い音が聞こえて、ボールが転がっていく。

 投げ終えた松渡が打者に向かって、走る。

 同時に二塁と一塁ランナーが走る。

 松渡が右方向に転がるボールを捕り、躊躇なく一塁に投げる。

 打者が一塁にスライディングする。

 星川が捕球して、一塁を踏む。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 戸枝は二塁に立ち、三塁にも西晋高校の選手が塁を踏む。


(まずはワンナウトか―――次は意地でも点を取りたがるはずだ)


 星川が松渡に返球する。

 松渡がマウンドに戻って、ボールをキャッチする。


「西晋高校―――八番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 相手の八番打者が右打席に立つ。

 三塁ランナーがリードをやや大きめに取る。

 二塁の戸枝もリードを少し取る。

 二塁からリードを取った戸枝がショートの紫崎に話しかける。


「紫崎ぃー。メンバーでなぁに話してたんだよぉ?」


「フッ、試合中だぞ。私語は控えろ」


「楽しそうなチームじゃねぇか。ハブるなんて水臭いぞぉ~? 俺もタイム集合に混ぜれぇ~」


 戸枝がくねくねと上半身を揺らす。

 紫崎がまるでパワハラ上司の誘いに嫌がる新人女性社員の様な態度を見せる。


「ちぇ、嫌そうにしてさぁ。寂しいのう」


 紫崎はずっと無言のまま構えている。


「なぁ、紫崎。お前と過去に試合したこの先輩って、ちょっとソッチの人なのか?」


 隣で聞いていたセカンドの九衞がホモを見るような目で戸枝を見る。


「フッ、九衞。これは戸枝先輩なりの自然体だ。この人は敵チームにも平気で話す。戦略でも何でもないから気にするな。そろそろハインと松渡が投げる頃だぞ」


(ハジメ、無駄球を投げることは無い)


 ハインがサインを送る。

 打者がバットを構える。

 

(解ってるって~、相手は構えてるけど、スクイズにする気満々だよね~)


 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 その瞬間―――三塁ランナーが走る。

 内角高めにボールが真っ直ぐ飛ぶ。

 相手の打者がバントの構えに入る。

 内角高めのボールをバットに当てる。

 コンッと言う金属音を立てて、ボールが左方向に浮く。

 松渡が左方向に走る。

 三塁ランナーがホームベースを踏む。

 地面に着いたばかりのボールを―――松渡が一塁に向かって送球する。

 星川が捕球する。

 相手の打者は追いつけずに一塁を踏み終える。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 西晋高校に二点目が入る。

 戸枝は既に三塁を踏んでいた。


「ありゃー、点はやるけどアウトは確実に取るってか? ハインも思い切った事すんなぁ。普通はホームベース対策でやるもんなのにさ」


 戸枝が腰に手を当てて、呟く。


「こりゃあ、生還出来んなぁ」


 戸枝が呟いた後で三塁を踏んだまま、立ち尽くす。



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