第108話
※
一塁側ベンチにはユニフォーム姿の中野監督が椅子に座る。
同じく記録係としてマネージャーの古川がスコアブックを開いて、机に座る。
観客席には松渡達のクラスメイトが何人か見に来ている。
目立たない席に柊木心菜の姿もあった。
(球場行くの久しぶりだな。松渡君達、勝てるかな? )
星川や九衞達のクラスメイトも見に来ている。
一回戦からは考えられない観客たちだった。
その中には野球通っぽい頑固おやじたちも座っている。
グラウンドの隅には、ローカルテレビ局などのカメラマンたちが大きなテレビカメラを回していた。
「話題になってるみたいですね。制服姿ですが他校の生徒も混じってますね」
席に座った古川が中野監督に話しかける。
「そのようだな。二回戦ですでに強豪校にマークされたが、今回の相手校の情報はこちらにある」
古川が机の前にスコアブックを出し、じっとグラウンドを見る。
「監督はこの試合―――どういう展開になると予想します?」
中野監督は横目で見る古川の横側を見て、ベンチに座り込んで話を続ける。
「この試合でメンバーの真価が問われるな。ノーマークの松渡が今日の主役になる」
「松渡君には言ってないですが、今日の試合で球種を二つ以上は封じるって―――ハイン君が前日に言ってました」
「良い判断だな。この風じゃナックルボールは使えない。もう一つは任せるか―――県大会はまだまだ長い。私も相手に手の内はまだ全て見せないつもりだ」
「スコアブックを書いていて、気づいたことがあればすぐに報告しますね」
「―――頼む。手の内を見せずに楽に勝てる相手でもないが、今後も考えて隠さなければならない」
「大丈夫ですよ、中野監督。あの子たちは強いですから―――」
中野監督と古川が話す一方―――。
三塁側の西晋高校(せいしんこうこう)も多くの観客で溢れていた。
野球の伝統校なだけあって、人数も例年どうり多いようだ。
西晋高校の野球監督が席に座っている中野監督を見る。
(あれが元兵庫四強の名将と呼ばれた中野砂夜か。思ったよりも若いな。こちらは去年より選手層が弱めだが―――大森高校は錦以外はそこまで強力ではない。この試合、勝たせてもらう)
バックネット裏に部長である各教諭と主将が審判の前で集まる。
駒島と相手チームの主将の横田が先攻後攻の取り決めをする準備である。
「メンソーレ! キャプテン。今日もじゃんけんに勝つサー」
「フンッ! 今回もこのワシがじゃんけんで不敗ということも証明せねばなぁ!」
茶髪のツーブロック髪を掻きながら、戸枝が疑うように駒島をじっと見る。
「こんな筋肉も無いオタ臭くて気持ち悪いデブがキャプテンなのか……本当に大森高校は強いのか怪しいもんだな」
そうぼそりと聞こえないように呟いて、帽子を被り直す。
「だから、大城。この前も言ったが、キャプテン同士の取り決めなんだから―――ベンチに戻りなさい」
鉄山先生にそう言われて、大城は小走りでベンチに向かう。
駒島と戸枝は先攻後攻決めのじゃんけんの準備をする。
審判が開始の合図をする。
それと同時に駒島と横田がじゃんけんを始める。
(ふむ、今日はブイチュバー動画のコロポッカ☆ポムリンが、切ない気分の時のじゃんけんにはグーが良いと言っていたな―――ならば、グー!)
駒島はそう思い―――グーを出す。
チョキを戸枝が出す。
「大森高校、先攻後攻を決めてください」
審判が駒島に聞く。
駒島が二年に渡された紙をじっと見る。
「うむ、後攻で一つ頼もう」
マジックで後攻と書かれた紙を握って、駒島は不遜な態度で答える。
鉄山先生がため息をつく。
(なんか子供のお使いみたいだな。じゃんけんだけは強いみたいなのが救いだが―――)
駒島が戻ってきた頃に、中野監督がスタメンを発表する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます