第67話
「星川君。惜しかったな。カットボールとストレートが見分けられるようになるまで―――次の打席で考えようぜ」
ややガッカリしている星川に、陸雄がフォローに入る。
「ええ……メジャーリーガー目指すのに―――同じ一年相手にこれじゃあ僕はまだまだじゃないですか?」
星川の言葉に灰田がハッと笑う。
「んな細けぇこと気にすんなって! 一回表で九点も取れたんだから、守備で無得点にしようぜ! そしたら及第点じゃねぇの?」
「灰田君。メジャーリーガーの道はそんな甘くはないんですよー。僕は安打王路線で行くんですから」
「がっはっはっ! この俺様を差し置いて、メジャーリーガーを目指すとはな。星川君よ。随分ビッグなドリームじゃないか?」
「フッ、まるでお前は最低でもドラフト指名されて当然と言った口調だな?」
「目指そうと思えば行けるな。俺様は持ってるからな!」
「九衞~。その自信はどこから来るんだよ~?」
「お、遅れたら主審に怒られちゃうから、早く守備の準備した方が良いよ……」
「リクオ。レガースとキャッチャーマスク持ってきてくれ」
「はいよー。ああ、サイン全部覚えってから、準備出来たらグラウンド先に行っていいぞ」
ベンチ内でワイワイ騒ぐ選手たちの中で―――中野監督は腕を組んで一部始終見る。
「……まぁ、攻撃側で少々暴れ気味だが試合を通して―――チームとしてまとまってきてはいるな」
中野監督はそうぼやく。
それを聞いた古川がニッコリと笑顔を見せる。
「監督の練習メニューをこなしたことと―――それぞれの努力が打席で現れているから士気が上がっているんですよ」
古川が嬉しそうにスコアブックを書く。
「今回、僕の出番ないかもなぁ~」
そう言った松渡がベンチでくつろぐ。
「ち、チームは勝ってるけど、複雑だね」
坂崎がベンチに座って、ジッと試合の様子を見る。
「野球じゃ良くあることだよ~。僕と坂崎の出番はまだ先かもね~」
同じく松渡はベンチで試合を見る。
ベンチに陸雄達が戻って来る。
一回表が終わり―――大森高校野球部は守備に入る。
「よっしゃ! みんな守備も気合い入れていくぜ!」
陸雄の一声で、錦と一年生達がグローブを付けて、ベンチからグラウンドに向かう。
「まぁ、陸雄がバテそうになったら―――監督が肩作れって言ってくれるよ~」
「そ、そうだね。い、一応レガースとか用意しておくよ」
坂崎の言葉と共に、陸雄達が守備位置につく。
※
「一回の裏。高天原高校の攻撃です。一番―――」
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
9対0の中で、高天原高校の攻撃が始まる。
(さて、初のマウンドだな。監督も始まる前に言ってたけど、ハインの指示どうりに投げるか―――)
「―――プレイ!」
球審が宣言する。
一番打者が入り、陸雄の準備が終わる。
(最初のサインは?)
陸雄がハインのサインを見る。
すぐに頷いて、投球モーションに入る。
セットポジションで投げ込む。
(こいつが俺の―――最初の投球だ!)
指先からボールが離れる。
勢いよくストレートが飛ぶ。
外角高めにボールが飛ぶ。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
一番打者はバットを振らなかった。
ボードに131キロの球速が表示される。
相手校のベンチにいる横田が驚く。
「こいつ―――なんて球速してやがる!」
同じ一年投手として、球速差に愕然とする。
陸雄がハインからボールをキャッチする。
(驚いてら、古川さんよりはおせーけどな。あの人は論外か―――)
ハインがサインを出す。
すぐに陸雄が頷いて、投球モーションに入る。
(セットポジションだから制球力は伊達じゃねぇ!)
指先からボールが離れる。
打者がバットを振るが、かすりもしない。
「―――っ! くそ!」
バットが空振る。
外角低めにボールが入る。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
ボードに127キロの表示が出る。
(ハイン―――次はどうする?)
陸雄がボールを受け取ると、ハインのサインを見る。
(サインに迷いがねぇな。流石ハインだな)
ハインのサインに頷くとセットポジションの投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
球速は112キロほどのスローなボールだった。
そのまま内角高めにストレートが飛ぶ。
一番打者がバットを振る。
カキンッという金属音と共にボールが打ち上げられる。
「ショートフライだ! 紫崎、頼む!」
紫崎がゆっくりと打ち上げられたフライを捕る。
「フッ、監督のノックに比べれば温い者だな」
「バッターアウト!」
審判が宣言する。
「紫崎、ナイスプレイ!」
「フッ、ハインに感謝しておけ」
紫崎からボールを受け取る。
「モチロンだって! さー、次々!」
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