第46話
時は戻り、ハイン達が灰田の家に着く前の時間。
九衞の家では、親戚の家族の方々が―――紫崎達を歓迎して鍋物を一緒に食べていた。
「錬司ちゃんの野球部のお友達なら、どんどん食べて良いわよ」
九衞の親戚の夫婦から、笑顔で迎えられた星川と紫崎はくつろいでいた。
「ありがとうございます! いやー、こんなにお肉が食べられるとは嬉しいですよ!」
星川が笑顔で皿に肉を入れて、白米と一緒に食べていく。
「まぁ、良く食べる可愛い子ね。お肉追加するわね」
腹八分になった紫崎は、食器を洗いに行く。
九衞が鍋の最後に入れたうどんを食べ終わる。
「紫崎、食べ終わったなら―――庭でスイングでもするか?」
テーブル越しにキッチンが見える場所で、九衞が質問をする。
「フッ、そうだな。お前の視点で見た錦先輩のスイング理論を聞いてみたいしな」
「じゃあ明日早えから、軽くこなして風呂にすっか。俺様の後に入れよ。この家で男で一番風呂は俺様と相場が決まっているんだからな」
九衞はそう言って、食器を同じく洗いに行く。
「スイング理論の話聞いちゃいました! 僕も興味あります! あっ、お肉はさっきの分でもう大丈夫です! 凄く美味しかったです! ご馳走でした!」
星川も食べ終わり、食器をキッチンに持って行く。
先に洗い終えた紫崎は待つために、テレビのあるソファーに座る。
「九衞君。僕がそちらの分も洗っておきますから、バットを持ってきてください」
「うむ、では俺様のマイルームから金属バットと木製バットを持ってこよう。食器洗い頼んだぞ」
九衞はキッチンから離れる。
ドアを開けて、二階の階段を上っていく。
ドアを開けたままなのか、奥から姉らしき声が聞こえる。
「錬司。二階上がるなら、ついでにあたしの部屋からお菓子取ってきてー」
「それくらい自分でやれつーの。俺様は日々の特訓で忙しいんだよ。その姿だと風邪ひくぞ」
星川が食器を全て洗い終える。
足音が広間に向かって、大きくなっていく。
「居候なのに生意気ね。いいわよ、冷蔵庫からアイス食べるから―――」
星川と紫崎が空いたドアから現れた女性を見る。
「えっ! きゃあぁー!」
首にタオルを巻いた下着姿の年上の女性が、赤面してが叫ぶ。
そのまま後ろを向いて、ドタドタとドアに戻り、階段を上がっていく。
紫崎がフッと笑い。
赤面した星川は前屈みになる。
階段の奥から大声が聞こえる。
「ちょっと、錬司! お客さんいるならメールで事前に送りなさいよ! 現役美少女高校生の裸を見せちゃったじゃない!」
「ああ、あえて送らなかった。悪いとも思わないし、スタイルそんな良くねーんだから別にいいだろ?」
「女性を何だと思ってるのよ! あたし今日は部屋から出ないからね! 着替え取ってきなさいよ!」
「今日から五日間だけ野球部の二人泊まり込むから―――風呂上がりの時くらい着替えて出ろよな。服は叔母さんに取って来て貰え……じゃあな」
星川がドキドキしながら、先ほどの九衞の親戚の女子高生の下着姿を思い出す。
(前と後ろ見ちゃった! 凄い下着履いてるんだな。どうしよう―――スイングの練習に響きそうだ。いや、僕はメジャーリーガーにならなければならない。こんなことで動揺していられない!)
星川が紫崎の隣で、テレビを一緒に見る。
「フッ、星川―――良い物が見れて、良かったな」
「し、紫崎君ー! なんでそんな余裕なんですか?」
「そういうことは中学で済ましているのでな」
「えっ? なんでちょっとそういう所は大人なんですか!」
「フッ―――九衞が来たぞ」
ドアを見ると、九衞が木製バットと金属バットを二本持っていた。
「じゃあ、庭に行くから玄関から靴を持ってこい。靴はコンビニ袋に入れるんだぞ。ん? 星川、どうした? 顔赤いぞ?」
「だ、大丈夫ですよ! 高校生らしい悩みが出ただけです」
「ほーん。ま、いっか。じゃあ先に庭に出てるから―――」
九衞は庭があるガラス戸を開ける。
そして袋から靴を取り出す。
それを見た後で、星川と紫崎は玄関に向かう。
玄関前についたら、コンビニ袋でそれぞれ靴を入れる。
そして居間から庭まで移動して、靴を取り出して履いた。
「俺様が木製バットを使って、錦先輩のスイングを説明するから覚えておけ」
九衞が「最初に金属バットは誰が持つ?」っという質問で、紫崎は星川に譲った。
「まず錦先輩は体の軸がしっかりしているんだよ」
九衞がバットを構える。
星川も九衞と同じように構える。
「星川―――まず背骨周りの筋肉のみに力を入れろ。そして足と腕は脱力するイメージを持ってスイングしてみろ」
「―――は、はいっ!」
九衞に言われた通りにスイングする。
スイング中の身体がやや安定せずに、姿勢が少し低くなる。
「もっと体の軸がブレないようスイングしてみろ」
「わ、わかりました」
「錦先輩はさっき言ったスイングにもう一工夫入れている。俺様は練習中にそれを盗みつつ、研究している。紫崎はどうして錦先輩があんなに良いスイングをするか解るか?」
紫崎は 涼しい顔で答える。
「フッ、体の軸が安定していると、球に力が伝わりやすくなる。これが一つだ」
「―――そうだ。つまりどんな球にも対応出来るんだよ」
スイングを中断した星川が驚く。
「どんな球にもですか!? す、凄い!」
「そのためには体の軸をしっかりと練習で作り上げることだ。中野監督は日々の練習でそれを鍛えてくれる」
「僕にも出来るんでしょうか?」
「星川―――出来るんですかじゃねぇ。出来るようになるんだよ。今は錦先輩と紫崎やはじめんもいるが―――来年からは俺とお前で点を取りに行くんだよ」
星川がゴクリと唾を飲み込む。
「自称二刀流のチェリーと、投手と守備を重点的にやるチンピラ野郎の素振りを見る限り―――打者としては微妙だ。野手の俺様と星川が来年も含めて、鍛えるしかない」
「フッ、すまんな。俺は九月になったら辞めるが、代わりに甲子園には確実に行かせてやる」
「おーお、言うねぇ。ビックマウスなお前も、ウザってぇ金髪もスイングは良いからな。はじめんはバント除けば、投手一本だしな」
星川がスイングをする。
「星川。合宿あるんだからあと十回やったら、紫崎に交代してスイングを観察しろ。そして俺様の風呂の後に入って、部屋で速攻で寝ろ」
「わ、わかりました! 寝袋がスポーツバッグにあるんで九衞君の部屋で使いますね!」
(陸雄君は投手として活躍するだろうし、僕も守備だけじゃダメだ。打者として点を取れるようしないと―――甲子園どころか、メジャーリーガーには近づけないんだ!)
決意した星川がスイングをする。
(さっきのスイングは錦先輩ほどじゃないが、中々だった。星川は今後打者として化けるかもな。この大会で成長すれば良いんだがな)
紫崎がそんなことを思いながら、九衞から木製バットを受け取る。
(俺も俺の目的の為に兵庫でトップにならないとな)
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