第11話

 清香の自己紹介も終わり、次にツーブロックの髪型の目付きの悪い男子が席を立つ。

 

「灰田朋也(はいだともや)っす。中学の野球部で暴力事件おこして停学になったんすっけど―――人に暴力だけは振るいたくないって思ってるっす」


 みんなが灰田の威圧的な不良特有の空気に押し黙る。

 決して良いとは言えないワードに、関わりたくないという気持ちが押し出る。

 陸雄が席を立つ。


「野球で何があったか知んねえけど、野球はお前を裏切らないぜ! 暴力しねぇなら―――痛みがわかるだけ―――なおさら優しい奴じゃねーか! 灰田、よろしくなっ!」


「君っ! さっきも言ったろう! 自己紹介中に大声で席を立っちゃダメだろ!」


「すいません、先生。でも灰田が学校生活楽しめなくなりそうな気がして、つい言っちゃいました」


「……灰田君もそういうことは今後言わないでくれたまえ、堂々と言って良い事じゃないぞ」


「ういっす。わかりました。ありがとうな―――そこのセンターパート髪の奴」


 灰田が陸雄に顔を向けて、お礼を言う。


「良いって! 気に……」


 先生が咳払いをしたので、黙りこくる。

 そのせいか場の空気が和む。


(陸雄らしいと言えば陸雄らしいかな)


 清香がクスッと笑う。

 自己紹介が続く。

 セニングカットの髪型の小顔の少年の番になる。


「松渡一(まつわたりはじめ)で~す。大型バイクに乗りたいんですけどー、高校生だと勉強もあるので、大学に入ってバイクや自動車の免許取りたいなって思ってます~。よろしくお願いしまーす」


「まだ一年生なのにしっかりした子だね。ウチの高校は許可を貰えば、二年生から原付の免許くらいは取れるようになるからね」


「わかりました~。あっ、ちなみに僕も野球部にいました~。サウスポーって言って左利きの投手ですー」


 ガタッと席を立つ音が聞こえる。

 誰かは明らかだった。


「お前、サウスポーなのかよ! 俺も投手やってんだ! サウスポーいると色々有利なんだよな! これからよろしくな!」


「君っ!?」


「あっ! すいません。あははっー。野球と聞くとつい……」


「ついで済みますか。そんなに目立ちたいなら自己紹介してもいいんだぞ」


「えっ? 良いんすか? じゃあ、改めまして……」


「こらっ! 怒られているのが解らないのか!」


「えっ? ああ、別に言っても良かったんですけど……そういうことなら、待ちますね」


 周りがドッと笑い出す。


「お前面白いな~! 自己紹介してくれよ~!」


 というクラスメイト達の言葉で、陸雄は笑顔になる。

 先生は周りのクラスのはしゃぎように頭を抱える。


「…………自己紹介しなさい。そして皆さんもそれで静かになる事。いいね?」


 クラスが黙り、陸雄が両手を背中に向けて、大きな声で自己紹介する。


「岸田陸雄(きしだりくお)です。中学まで野球してました。軟式で県大会八位です。大森高校野球部に入って、甲子園で優勝します! よろしく! とりあえず灰田と松渡に紫崎は野球部入れ!」


「はぁ? おい、進路勝手に決めてんじゃねーよ! 熱血青春野郎!」


 灰田がガッと席を立ち大声で話す。


「いいじゃねーか! 暴力事件起こしそうになったら、止めてやるから安心しとけ」


「そういう問題じゃねーよ!」


「僕はもう野球しないんだけどな~」


 松渡はそう言って、座りこんだまま話す。


「控えがいねーと俺だけになるだろ? はじめんも甲子園の為に入部しとけよ」


「は、はじめん~?」


 リスのようにクリッとした瞳を持つ松渡の表情が―――そのワードで思わず口をへの字にして崩れる。


「良いアダ名だろ? 二人の投手で甲子園のマウンドにそれぞれ立とうぜ! 負担半分、防御率激減りだ!」


「あのさぁ……僕は野球やるって決めたわけじゃ~。それに僕だけアダ名って、なんかサベツ~」


「じゃあ、通り名でどうだ? 大森高校のクロスファイヤーサウスポー松渡とか? カッコいいだろ?」


「それ、ほぼボール球連発じゃねーか…………」


 思わず灰田が突っ込むも、先生が怒鳴る。


「いい加減にしないか君達っ! 居残りにするぞ!」


 赤面した先生の怒声で黙りだす。


「「は~い」」


 周りのクラスメイトはすっかり緊張が解けていた。

 紫崎だけが最後まで押し黙っていた。



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