第6話
ショートの乾が声をあげる。
「陸雄ー! まだ点が入ってない。落ち着いていけよ!」
乾の言葉で力が抜けたのか、ここに来てようやくリラックスする。
「わ、わかった!」
セカンドから陸雄にボールが投げられる。
パンッとキャッチして、次の打者を待つ。
この回はそれ以降、コントロールがやや正確なまま抑える。
※
九回表。
点差は一点差で陸雄のチームが有利な状態になる。
相手の監督が代打を出す。
(ここに来て代打か。ツーアウトでランナー二、三塁か―――陸雄は紫崎に二回打たれたが、点に入るまでには至っていない)
ハインが座り込んで肩の力を抜く。
代打の六年生がバットを上に振り、構える。
(初球は難しい球は飛ばさない奴が多い。リクオにちょっと度胸と緩急付けさせるか)
マウンドの陸雄は後一人という状況で緊張し始める。
ハインが打席を見る。
(バットが肩に当たっている。内角打を狙っているな―――それなら真ん中より下―――低めに全力で投げるんだ)
サインを出し、ミットを構える。
(低めに―――全力で、投げる!)
陸雄が投球モーションに入る。
ボールを地面に叩きつけるように力強く投げる。
代打がやや遅めにバットを振る。
ポンっという軟球の音が響く。
(何っ! ―――打たれた! ショート方向!)
ハインがマスクを上げて、ホームベースに足を踏む。
三塁からランナーが走って来る。
その時だった―――。
ショートの乾が、上空のボールをジャンピングキャッチする。
「アウト! ゲームセット!」
審判の声で味方チームがワッと騒ぐ。
「乾! ナイスプレイ!」
チームが乾を中心に集まる。
ハインが静かに目を瞑る。
(バックに救われたか。危うい試合だが二、三塁をチェンジできた。リクオの課題は―――コントロールとボール球でも全力で投げれる思い切りの良さ、か)
マウンドで立ち尽くす陸雄は、ハインに話すべきか、乾の所に同じように集まるべきか迷っている。
「試合―――終わったんだ。良かった。勝てた」
陸雄はそう呟いて、青空を見上げる。
「今日はこんなに―――空が青いんだ。緊張してて気づかなかった」
ハインがマウンドに駆け寄る。
「リクオ―――整列だ。勝ちこそしたが、今日の反省点は後で話す」
「―――う、うんっ!」
※
「凄いじゃないか、陸雄! お父さん嬉しいぞ」
整列が終わり、選手が両親の元で話す時間。
陸雄は父親に頭を帽子越しに撫でられる。
「ありがとうお父さん! 東京行っても仕事頑張ってね」
「任せなさい。さあ、お父さんのことは良いから―――みんなのところに行ってやりなさい」
「―――うんっ!」
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