新年、骨董屋にて
毛野智人
第1話
陽が落ちてしまえば、とびきり冷たい空気があっという間に
坂の途中に
年末から三が日にかけては仕舞われているが、常ならば坂道に面した家の入口には、『
凡庸ながらも清潔感のある容貌は
棚の最下段を
「ないなあ」
ため息混じりに呟いて、環は首を
「ありそうなものだけれどなあ」
屈んで別の棚を覗き込む。
季節の品や買い手のつきやすい品を一階に展示しながら売っているが、そのほかの品や希少価値の高い品は二階に保管されている。元々は環の祖父が趣味で集めていた骨董品が在庫の大半を占めていたが、今では縁あってこの店に流れてくる品も増えた。
新年を祝うため一階に飾るに相応しい逸品はないかと二階のコレクションを見にきたが、環の予想以上に選別は難航していた。
「お祖父様ならきっと持っていたと思うんだけれど……」
環は呟きながら床に膝をつき、下段の桐箱を取り出して紐を
蓋を開けると、
竹林図だろうか。しかし、絵の構図がやけに寂しい。
皿を縦に切る竹の線は中央を外していて、竹林が絵の主題とは思えない。余白を多く取る意匠の品も勿論あるが、それにしてはアンバランスな配置に見える。
細かいことを気にせず料理を盛るにはちょうど良いかもしれない。これはこれで普段使いにしてしまおうと環は箱を抱えて立ち上がる。
「だめだな」
見つからないときは見つからない。
見つかるときは意外なほどすんなり見つかる。
骨董との出会いには不思議な縁があるのだ。物の方でも持ち主を選んでいる節があって、
経験上、無理に探しても収穫がないと環はよく知っている。
今は諦めて年越し蕎麦でも
階下へ行くと、戸口の隙間から入り込んだ冷気が肌に触れて思わず身震いした。
「あったかいのにしよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます