第114話 妖艶な男性
何て綺麗な男の人なのだろう…。
街灯の灯りで茶色の髪の毛がキラキラと光り輝いている。まるでハリウッドスターのようなルックスに見惚れていると声を掛けられた。
「あの…僕の顔に何か?」
怪訝そうに首を傾げる男性から慌てて離れた。
「い、いえ!何でもありません!助けて頂きありがとうございまし…痛っ!」
左足首に痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「大丈夫ですか?もしかして今ので足を痛めたのではないですか?」
男性が心配そうに声を掛けてくる。
「い、いえ。本当に大丈夫ですから…」
しかし、私の左足首は熱を持ち、ズキンズキンと鈍い痛みが続いている。
「…」
男性は私が痛みを堪えている様子に気付いたのだろう。
「本当に申わけございません。僕の前方不注意で貴女に足の怪我を負わせてしまいました」
そして頭を下げてくる。
「い、いえ!そんなっ!謝らないで下さい。ちゃんと前を見ていなかった自分の責任ですから」
「ですが、それでは歩けないでしょう?タクシーを拾いますので送らせて下さい」
「タクシーなら自分で拾えますから大丈夫ですよ」
尤も家までいくらで帰れるか分からないけれども…。
「いえ、僕に送らせて下さい。どうぞ、僕につかまって下さい」
手を差し伸べてきた。
「は、はぁ…ありがとうございます…」
恐る恐るその手につかまると、予想以上に力強く握り返された。
「では、参りましょう」
「は、はい…」
思わず頬が赤くなりながら頷いた―。
****
私と男性を乗せたタクシーは夜の町を走っている。…何だか夢みたいだ。こんなに素敵な人が隣に座っているなんて。彼にバレないように窓ガラス越しに映る姿をそっと盗み見ていると…、彼は突然私の方を振り向いた。
「!」
そしてガラスに映る私と目が合ってしまう。
ど、どうしよう…。まさか、私が見ているのがバレてしまった…?
彼はニコリと笑うと言った。
「窓の外に何かありましたか?」
「い、いえっ!た、ただ外の景色を眺めていただけですからっ!」
慌てて振り向き、返事をした。
「そうですか、それは残念です」
彼は少し目を伏せた。
「え…?」
「僕としては外の景色よりも貴女を見ていたのですけどね?」
「え…えええっ?!」
「驚きましたか?実は本当の事を言うと…貴女とぶつかってしまったのは、僕がつい貴女の美しさに見惚れて足を止めてしまっていたからなのですよ?だからこんな風にお近づきになれて嬉しいです」
「…」
嘘だ。こんな素敵な男性が私に見惚れるだなんて…。
「ま、またまた…御冗談ばかり…」
「冗談?僕は冗談なんかいいませんよ?貴女さえ構わないなら…僕に囚われて見ませんか…?」
え…?囚われる…?
気付けばいつの間にかタクシーは寂しい住宅街で停まっていた。目の前には私が暮らすマンションがある。
「どうです?僕に身を委ねてみませんか…?」
妖艶な雰囲気で迫ってくる彼に次第にジワジワと恐怖を感じ始めていた。
「い、いえ。私は…」
言いかけたその時―。
< ユリアッ!! >
突然頭の中で声が響き渡った―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます