第102話 告白の後始末

「ジョ、ジョン…」


私はジョンの姿を見て打ち上げられた魚のようにパクパク口を動かした。


嘘でしょう?ど、どうしてジョンがここに…?


いや、そうでは無い。私はいつどこでジョンに命を狙われていてもおかしくないのに、セラフィムがジョンに傷を負わせて一時的に追い払った話を聞いて、すっかり油断してしまっていたのだ。しかも肝心のセラフィムは側にいないし、頼りにならなくてもいないよりはマシなベルナルド王子だっていないのだ。


逃げなくてはいけないのに、逃げられない。いや、そもそも逃げ切れるはずもない。

私の動揺をよそに、ノリーンはジョンに話しかけた。


「え?ジョンさん?おはようございます。随分お久しぶりですね」


やっぱり…ノリーンにはジョンの記憶があるんだ。他の誰にもジョンの記憶は残っていないのに…。


「ああ、おはよう。ノリーン」


言いながらジョンはヒラリと木の上から飛び降りた。ジョンはマント姿だった。


「あら?ジョンさん。制服は着ていないのですか?」


「ああ、学校は辞めたからな。だからもうここの学生じゃないんだ。ところで…」


ジョン…いや、オルニアスは腰に手をあててチラリと私を見た。

その視線に思わずビクリと肩が跳ねる。


「ノリーン、悪いが席を外してくれないか?ユリアと2人きりで話がしたいんだ」


笑みを浮かべてノリーンを見る。


「ええ、そうですね!何しろユリアさんに告白されたも同然ですから!」


その言葉にギョッとする。


ちょ、ちょっと!余計な事言わないでよっ!


「ああ、そうなんだ。俺のことを好きだと言ってくれているんだから…ちゃんと返事は返してあげないとな?」


そして意味深に私を見た。


「い、いえ!け、結構よっ!そ、そんなつもりであんな事言ったわけじゃないから…」


身体から血の気を引かせながら後ずさった。


「告白するのにそんなつもりもこんなつもりも無いだろう?ユリア」


すると再び余計なことを言うノリーン。


「そうですよ、ユリアさん。それじゃ私は行きますね。お邪魔しました」


ペコリと頭を下げて立ち去るノリーンに慌てて声を掛けた。


「ノ、ノリーンッ!!」


「はい?」


振り向くノリーンに私は言う。


「あ、あのねっ!さっきも話したけど…私はベルナルド王子の事、好きでもなんでもないからっ!こ、婚約破棄だってしてるから!(多分)」


「はい、分かりました。それじゃ!」


そしてノリーンは手を振って駆けていった。


「そ、それじゃ…って…」


何?たったそれだけ?オルニアスに『ユリアさんの命を狙うのはやめなさい』って命じてくれないのっ?!


そしてその場に残される私とオルニアス。


「さて、ユリア…ようやく2人きりになれたなぁ…?」


セラフィムそっくりの姿をしたオルニアスは美しい笑みを浮かべて私を見た―。

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