第68話 息詰まる食卓
そ、そんな…っ!記憶喪失で自分のことも何一つ覚えていないのに、どうして母親の名前が分かるのだろう?大体、何故母親が亡くなったのかも分からないのにっ?!
「あ、あの…そ、それは…」
背中に冷や汗が流れる。そう言えば父の話では私は兄達から嫌われているようだった。と言う事は…私を追い出す為にこのような質問をしているのだろうか?」
「どうした、ユリア。やはり答えられないのだな?だったら…」
シリウスお兄様目が怪しく光る。
「ああ、答えられないのだったら…」
その時―。
バタンッ!
突然扉が大きく開け放たれ、お父様が部屋の中に現れた。
「アレスッ!シリウスッ!お前たち、ユリアの部屋で何をしているのだっ!」
「あ…父上…」
「父上っ!」
アレスお兄様とシリウスお兄様が驚いたようにお父様を見る。
「一体お前たちという奴は…1年ぶりに帰ってきたかと思えば私の所へ顔も出さずにユリアの元へ行くとは…一体何を考えているのだ?!」
えっ?!そうだったの?!
「そ、それは…」
「ユリアの様子を見に…長男としてユリアの様子が気になったので…」
2人の兄はオロオロしている。
「それにお前たち…ユリアは記憶喪失だと言っているだろう?それなのに母親の名前など答えられるとでも思っているのか?!一体何を考えているのだ!」
「「…」」
あ!黙ってしまったっ!やっぱり私が答えられなかったら難癖をつけてここから追い出すつもりだったのかもしれない!
「…とにかくお前たち2人には話がある。荷物を置いたら速やかに私の執務室へくるように」
父は頭を抑えながら言う。
「え?荷物?」
その言葉に驚く。何とよく見れば私の部屋の入り口に大きなトランクケースが2つおかれているではないか。この2人は自分の荷物を持ったまま私の部屋にやってきていたのだ。
「「はい…」」
2人の兄は不満?そうに返事をすると父に連れられ、トランクケースを引っ張りながら私の部屋を出ていった。
「ふぅ…やっといなくなってくれたわ…」
安堵のため息を付きながら、この先の事が非常に不安になってきた。
「私…このまま何事もなく、この屋敷にいられるのかしら…」
そして私は不安な気持ちを抱えつつ…再び勉強を再開した―。
****
19時―
カチャカチャカチャ…
久しぶりに家族全員一家揃っての食事の団欒席…。それなのに、誰1人口を利く者はいない。
「「「…」」」
父も2人の兄も豪華な食事を前に無言で料理を口にしている。
「…」
未だに記憶が戻らず、全員が赤の他人にしか思えない私は当然言葉を掛けることも出来ず、やはり無言で食事を続けていた。
「「「「…」」」」
張り詰めた、行き詰まるような雰囲気。うう…胃が痛くなりそうだ…。食事が済んだらさっさと自分の部屋へ戻ろう。
そう考えていた時―。
「ユリア」
突然アレスお兄様が声を掛けてきた。
「は、はい!」
驚いて顔を上げるとアレスお兄様がじ〜っと私を見つめている。
「な、な、何でしょうか?お兄様」
「お前…野菜が大嫌いだっただろう?それなのに何故今は残さず食べられるんだ?」
え?!そうだったのっ?!
「え、ええ。もう子供ではありませんので好き嫌いを言うのはやめにしたんです」
咄嗟に口からでまかせを言う。だって全ての野菜料理、美味しかったけど?!
「ふ〜ん…それどころか魚料理も嫌いだったよな?それなのに今は綺麗に平らげている」
シリウスお兄様に空になっている魚料理の皿をフォークで指し示される。
え?!魚料理も嫌いだったの?!
「オ…オホホホ…お腹が空いていたので…」
苦しい言い訳をすると、父が言った。
「何だって?お腹が空いていたのか?それでは明日からもっとユリアの食事の量を増やすように厨房に伝えておこう。何しろお前は10日ぶりに目が覚めたのだからな」
「い、いえ!結構です!あ、あの…食事が済んだので私はこれで失礼致します!」
ガタンと席を立ち、私は逃げるようにダイニングルームを後にした。
そして自室を目指しながら私は思った。
いくらなんでも食事の嗜好まで変わっているなんて…。
本当に私は本物のユリア・アルフォンスなのだろうか―と。
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