第9話 護衛騎士との会話
翌日は学校を休んでしまった。理由は前日、池に落ちてしまったことと護衛騎士のジョンの入学手続きを済ませなければならなかったからだ。
「ユリアお嬢様。先程私の入学手続きが済んだそうですよ」
昼食後、自分の記憶を失った手掛かりを探す為に自室の本棚を漁っていた私の元へ、1枚の書類を手にしたジョンがフラリと現れた。
「…相変わらずノックもしないで貴方は部屋に現れるのね…。私が着替えでもしていたらどうするのよ」
ため息を付きながら、手にしていた本を棚にしまうとジョンが言った。
「だったら、ユリアお嬢様も少しは警戒心を持ったらいかがですか?一応貴女は命を狙われているのですよね?まぁ、昨日の池ボチャが演技でない限り…」
「ちょっと、酷いじゃない。あんなドレス姿で池にわざと落ちるはずないでしょう?貴方がいなければとっくに溺れていたわよ。…そう言えばあの時、どうして貴方があの場に現れたの?」
するとジョンはため息をついた。
「やれやれ…そこから説明が必要だったとは…。いいですか?私は今迄メイドに扮してユリアお嬢様のお世話係として護衛していました。昨日は天気がいいので外のテラスで紅茶が飲みたいとおっしゃる我儘なユリアお嬢様の願いを聞き入れ、お茶の準備をして戻ってくれば…お嬢様がフラフラと庭の池に向かって歩いていく後ろ姿を見かけたのです。一体なにをしに行くのかと見守っていると、いきなり池に飛び込まれたのですよ。そこで私が慌てて駆けつけた次第なのです」
「そうだったの…。ところで、私がお茶を飲む前…何か異変は無かった?」
「いいえ、特には」
「そうなの?だって一ヶ月も私の側で護衛をしていたなら、どこかいつもと違う様子が分かったりするものじゃないの?」
だって仮にも私の護衛騎士であるのに。
「あいにく、人の心の機微には疎いもので。まぁ…単にユリアお嬢様は私に取って、護衛の対象であるだけで、人間的に一切興味を持つべき対象ではありませんからね」
「そ、そう…」
どうもこのジョンと言う護衛騎士…顔は恐ろしいほどいいのに、性格がかなり歪んでいるように思える。
「ねぇ、ジョン」
「何でしょう?」
「貴方…友達いないでしょう?」
「そうですね。でも必要ありませんから」
「そう、友達がいないなんて可愛そうね」
「…」
するとジョンが奇妙な顔つきになる。
「何よ?」
「いえ…よく、その様な台詞を言えるなと思いまして…」
「一体、どういう意味?」
「いいえ、何でもありません」
ジョンはそれ以上何も言おうとせず、ソファに座ると自分の入学届けに目を通し始めた。全く…一体何だというのだろう…。ため息をつきながら、私は別の本に手を伸ばした―。
****
18時半―
「はぁ〜…」
ズラリと食事が並べられたダイニングテーブルを前に、私はため息をついた。向かい側にはジョンが美味しそうに食事を口にしている。
「ユリアお嬢様、食べないのですか?」
不意にジョンが声を掛けてきた。
「ええ…ちょっとね…あれ程記憶喪失の原因を探したのに、突き止められなかったから少し落ち込んでいて…ひょっとして心配してくれているの?」
冷たい人間に見えて…意外と優しいところもあるのかもしれない。
「いえ、食べないのであれば頂こうかと思っただけです」
「ど・う・ぞ!」
ムカッとしながらも、自分の手つかずの肉料理の乗った皿をジョンに突き出す。
「ありがとうございます、頂きます」
躊躇なく皿に手を伸ばすジョン。そして美味しそうに食事を続ける。
「本当に…よく食べるわね。そんな細い身体のくせに…」
「ですが、私は着痩せして見えるだけで筋肉はすごいのですよ?何なら脱いでお見せしましょうか?」
言いながらシャツの襟元に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待ってっ!いいっ!脱がないでいいってばっ!」
「そうですか…分かりました」
何故か少し残念そうに言うジョン。ひょっとして…筋肉自慢をしたかったのだろうか?
「ふぅ…今のでますます食欲が失せたわ…私、先に部屋に戻っているから」
ガタンと席を立った。
「そうですか。分かりました。ではまた後ほど」
妙な言い方をする。
「?え、ええ…」
そして私は自室へと戻り…後ほど、自分の部屋とジョンの部屋の中の扉と繋がっている事実を知ることになるのだった―。
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