【3巻8/7発売】隠れ才女は全然めげない~義母と義妹に家を追い出されたので婚約破棄してもらおうと思ったら、紳士だった婚約者が激しく溺愛してくるようになりました!?~
第6話 一体どういうことですか!?(クラウス視点)
第6話 一体どういうことですか!?(クラウス視点)
「――なんだって? ジネットがいないとは、どういうことですか?」
通されたルセル家の応接間で、夫人の言葉を聞いたクラウスがぴくりと眉を震わせた。
普段声を荒げたりせず、それどころか
「ルセル
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。だってあの子、自分から出ていくって言ったんですもの。ねえ? アリエル」
「そうですわクラウス様。それにお姉様は令嬢なのに商売などと、
その言葉に、クラウスの瞳がギラッと光る。
――彼は普段、“聖人”などと呼ばれるほど穏やかだが、それは外向けの顔。
本当は、皆が思っているよりもずっと
(父親が行方不明になったばかりなのに、彼女がみずから出て行っただと? たとえそれが事実だとしても……そこには、必ずこの女たちが噛んでいるはずだ)
だが、それは彼の
噛みつきそうになるのを、クラウスはぐっとこらえる。
「……それで、ジネットの行き先は?」
「さあ? わたくしにはさっぱり……。おおかた、親戚の家にでも行っているのではなくて?」
「お姉様ったら、全然お友達がいらっしゃらないから」
くすくすと笑うふたりを前に、クラウスは声を荒げないよう必死に自分を抑え込んでいた。
(……今すぐこの
クラウスはなんとか呼吸を整えると、無言で立ち上がった。
そんな彼の本音にはまったく気づかずに、ルセル夫人があわてて声をかけてくる。
「あっ! お待ちをクラウス様! ジネットはルセル家を出てしまったので、あなたとの婚約を解消しようと思っているんですの」
その言葉に便乗するように、頬を赤らめたアリエルも高い声で続く。
「そして代わりに、わ、私と婚約を――!」
「失礼。急いでいるもので」
そんなふたりの言葉を、クラウスは乱暴に切った。
「えっ!?」
「クラウス様!?」
何やら騒ぎ立てているふたりを振り返ることなく、クラウスがさっさと部屋を後にする。
普段の彼なら絶対にそんな失礼な行動はとらないのだが、今は別。なぜなら、ジネットのことが心配で心配で、胸が張り裂けそうだったのだ。
クラウスは馬車に乗り込むと、ぎゅっと
(ああ、頼む……ジネット、どうか無事でいてくれ)
――ジネット・ルセル男爵令嬢は、
沈みゆく夕日を思わせる赤髪に、緑がかった神秘的なグレーの瞳。丸い大きな目はいつもキラキラと輝き、愛らしい顔立ちは妖精のよう。
そんなふたりの出会いは、招待されたルセル家のティーパーティーだった。
(最初はひたすらに化粧の濃い、変な子だと思っていたが、とんでもない。ジネットほど賢く強く、美しい女性はどこにもいない……!)
出会った時のジネットは、十三歳だというのに道化のような化粧をしていた。
目のまわりにぐるりと乗せられた濃いアイシャドウに、塗りたくった頬紅、不自然なほど真っ赤な唇。
あまりにけばけばしい姿にクラウスはぎょっとしたが、自分の
(他の令嬢同様、紳士に接すればいいだけ)
そう思っていたクラウスに変化が訪れたのは、どこぞのお茶会の庭で令息たちに囲まれた時だった。
「――おいクラウス。お前、あの“成金ルセル”に身売りしたんだろう?」
にやにやと、
(やれやれ……令嬢たちを
目の前に立つのは、寄宿学校時代一緒だった令息たちだ。
彼らは成績、教師たちからの評判、令嬢たちからの人気など、何ひとつとしてクラウスに敵わないのが気に食わないらしく、ことあるごとに突っかかってきていた。
「よかったなあ。そのお綺麗な顔を買ってもらえて」
「それともあれか? 娘との婚約は
下品すぎる発言に、ドッと令息たちが笑い出す。クラウスはため息をついた。
「ルセル男爵は立派な人だ。
それから冷たい瞳でちら、と彼らを見る。
(僕に
確かにクラウスは、ギヴァルシュ伯爵家のために身売りしたと言われても仕方がない状況で婚約した。
だがそれはクラウスの外見や能力をルセル男爵が評価してくれたからこそであり、自分が家を救えたことを誇りに思っている。
(彼らはきっと、思い出の品を
母が毎日弾いていたピアノを、見知らぬ人たちが運び出していく悲しさ。
それらを思い出しながら、クラウスは静かに彼らを見ていた。
(……でも、わざわざ自分の苦労を語る気も、わかってもらう気もない)
それに、この手の
適当にやり過ごそうと、クラウスが口を開きかけたその時だった。
ガサガサガサッ! と音がして、
「クラウス様を、悪く言わないでください!!!」
真っ赤な髪を
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