【2巻12/8発売】隠れ才女は全然めげない~義母と義妹に家を追い出されたので婚約破棄してもらおうと思ったら、紳士だった婚約者が激しく溺愛してくるようになりました!?~
第3話 こんな時だけど、ワクワクしています
第3話 こんな時だけど、ワクワクしています
それからジネットは、ベッドの上に旅行
(まずはどこの宿に行きましょう? 色々な宿屋をはしごするのもきっと楽しいわ!)
などと考えていると、コンコンとノックの音がして、姉妹同然に育った侍女のサラが入ってくる。
サラは茶色のおさげを揺らしながら、義母たちへの嫌悪を隠そうともせずに言った。
「お嬢様、今度はどんな無茶を言われたんですか? 南国の珍しい果物が食べたいとか? それとも人気の
サラはいつも通り、ジネットが
「ううん、何も買わなくていいみたい。代わりに、私がこの家を出ていけばいいのですって!」
「お嬢様が家を出るってどういうことですか!? またあの女の仕業ですか!? 今までずっと我慢してきましたが、もう限界です! 今日こそあのアバズレの頬をひっぱたいてやる!」
腕まくりをして鼻息荒く突っ込んでいこうとする彼女を、ジネットはあわてて引き止めた。
昔からサラは、ジネットのことになると少々……いやだいぶ過激なところがあるが、さすがに主人家族に暴行を振るうのはまずい。
「サラ、待って! 私、ようやく気付いたの。これはお義母様たちの愛のムチ……つまり、ご褒美だと!」
「いや絶対に違うと思いますけれど」
「お義母様たちとお別れするのは寂しいけれど、私のためにわざわざ背中まで押してくださったんですもの。その気持ちに応えなくっちゃ!」
サラは最初「そんなバカな……」という顔をしていたが、「お義母様たちとお別れ」という言葉を聞いた瞬間、キラッと目を輝かせた。
「お嬢様……ついに決断してくれたのですね!」
それからガシッとジネットの両手をつかむ。
「サラは、ずっとずっとこの日を待っておりました! お嬢様が、あの
「そうだったの!? ごめんなさい。私、全然気付かなくて……」
ジネットが謝ると、サラはからからと笑った。
「仕方ありませんよ。だってお嬢様ったら全然平気そうでしたし、むしろ楽しんでいましたよね?」
「た、楽しんでいたわけじゃないのよ? ただ、勉強になることも多いなあと思って……」
義母たちは皮肉なことに、『厄介な客』として練習相手にぴったりだった。
しかも本物の客と違って、多少失敗したり雑に扱っても、
そんなジネットに、サラが小さくため息をつく。
「そのたくましさがお嬢様のいいところですね。
「それは違うわ、サラ」
ジネットは首を振った。
「もともとこの家は、アリエルが相続するとお父様も言っていたでしょう?」
「それはそうですが……」
父はずっと、
(とはいえ、お義母様は商会についてはひとことも話していなかった……。はっ! もしかして、これもご褒美のひとつでは!?)
などと考えていると、サラが口を尖らせてぼやく。
「旦那様が決めたこととは言え、私はやっぱりあのふたりは大っ嫌いですね! 失礼ながら旦那様は、女性を見る目が致命的に欠けていらっしゃいますよ」
家同士の結婚であったジネットの母とは違い、義母は父がものすごく酔っぱらった日の夜に連れ帰ってきた
「そうなの? 私を殺そうとしてこないだけ、とても優しいと思っていたのだけれど……」
「
サラの言葉に、ジネットはくすくす笑った。
「それにね、サラ。この家の主人は、今もお父様のままよ」
言いながら、ジネットはそっと小さな絵を撫でる。そこに描かれているのは、若き日の父と亡き母と、まだ赤ちゃんのジネットの姿だ。
「お義母様は亡くなったと決めつけているけれど、お父様は三度雷に打たれても死ななかったような方よ。諦めるなんて、早すぎるわ」
父が行方不明になってから、まだたったの一週間なのだ。
聞けば、父は
「本当は私がお父様を探しに行ければいいのだけれど……女である私が出国するには許可証が必要だし、土地勘もないから。まずは信頼できる人に、お父様探しをお願いしないと!」
言いながらジネットは気合を入れた。
これからやることは山積みだ。まずは知り合いのおじ様たちを当たって、未成年かつ女性であるジネットを雇ってくれる人がいないか探す。それから生活基盤を確立しつつ、今度は父を探してくれそうな人を見つける。
(それから……)
ジネットはもうひとつ、とても大事なことを思い出していた。
(クラウス様にも、私のことを
クラウス・ギヴァルシュ伯爵。
長年の婚約者のことを考えて、ジネットはぎゅっと手を握った。
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