11_止まらない悪い噂の結末
■葛西ユージ視点
翌日は更に本格的に噂が広まっていた。
どうも光山先輩自体が広めているらしい。
「ウルハごめん」
「ううん、いいの。ユージのせいじゃないから」
僕はあれから毎日、帰宅後にウルハの部屋に来ている。
1日あったことを話したり、良くない噂についても少しだけソフトにして話をしている。
「生徒会は?」
「ああ、僕も応援に行って、少しずつ平常通りに戻ってきてる。まだ役員の人たちは大変そうだけど」
「そう・・・」
少し寂しそうな表情。
「・・・光山先輩は?」
「新しい子にアタックかけてるって話は聞いた・・・」
「もう、最悪・・・」
もじもじしながら、指輪を触るウルハ。
何か思いついたのか、力強い声で聞いてきた。
「ねえ、過去の人は救えないけど、未来の人は救えないかな?」
「ん?どういうこと?」
「私みたいに怖い思いをしちゃった人を集めて、被害者の会を作って、光山先輩を糾弾するの」
「それはすごいと思うけど、どうやって被害者を見つけるか、だよ。特別なメガネで見分けられるとかあればいいけど・・・」
「たくさんの中から特定の人を見つけ出す・・・」
少し考えた後、ウルハが言った。
「私がやるわ!」
「え!?」
「私に考えがあるの・・・」
ウルハの作戦を聞いた。
「でも、それだと、最悪ウルハはずっと不名誉なレッテルを貼られたままで残りの高校生活を送ることになるよ!?」
「人を呪わば穴二つってね、私も本気で行くわ!」
勢いがいい。
これはいつものウルハだ。
言ったことは確実に実現する。
それが彼女の実力であり、僕が誇らしいところでもある。
つい、なにか力になりたいと思ってしまうんだ。
「失敗したら、私全校生徒からビッチ扱いされると思うけど、それでも捨てないでね」
「捨てないけど、どうせ、そんな事にはならないよ」
「ユージには『ビッチの彼氏』と言う十字架を背負わせることになるわ」
「なんか重たいの来たな・・・。大丈夫だよ。もしもの時は地獄の底まで付き合うから」
ウルハが僕の手に彼女の手を重ねてきた。
「ユージがいれば私は大丈夫」
笑顔もきりっと決まっている。
「じゃあ、僕がウルハの作戦の前に盛大に光山先輩にケンカを吹っかけてやりたいと思うんだけど、いいかな」
「はあ!?ケンカでは負けたんでしょ!?」
「ああ、バキベコバコにね」
まだ顔に痣が残っている。
「だから、健全にスポーツで勝負をしかけるよ」
「え?ユージってスポーツ得意だっけ?」
「いや、全然。でも、光山先輩とは、バスケット勝負しようと思う」
「それこそどうなのよ!?相手はインターハイ出場の立役者なのよ!?スポーツ特待で有名大学も決まってるのよ!?雑誌にも載ってる有名選手なのよ!?」
「そこを逆手に取るんだよ!」
「逆手に取れるものなの!?ユージが負ける未来しか想像できない・・・」
「まあ、『準備』しないといけないけどね」
勝負の日は、それから2週間後。
この2週間の間に例の悪い噂はこれでもかと言うくらい広まっている。
もはや事実のように語られている。
そんな中、生徒会が『緊急生徒総会』を明日に予定していた。
議題は発表されていなかったが、誰もがアレの件だと理解していた。
それくらいこの噂は広まりまくっていた。
そして、僕は昼休みに『作戦』を決行した。
僕と、ウルハ、そして、クラスメイト全員で光山先輩の教室に押し掛けたのだ。
教室のドアを開ける前、手が震えているのに気づいた。
ウルハが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
彼女にこんな顔をさせちゃだめだ。
やるしかない!
(ガラッ)「失礼します!光山先輩!」
時は昼休み。
3年の教室ではみんな思い思いにお弁当を食べたり、話し込んでいたりしていた。
そこにクラスメイト約30人で乗り込んだ。
否が応でも緊張が走る。
ウルハが光山先輩と対峙するのは、精神的にもハードルが高そうなので、彼女は廊下まで。
それでも相当頑張ってくれている方だ。
「光山先輩!ウルハの間違った噂に迷惑しています!取り消して謝ってください!」
「んだ!?てめら」
とりあえず、人数で押した。
「お前この間の生徒会か!」
「いや、僕は、ウルハの彼氏です!」
「ははーん」
全てを理解したのか、僕と廊下のウルハを交互に見たら、歪んだ笑顔を浮かべる光山先輩。
「初物は俺がいただいたからな!中古で悪いな、後輩」
「その間違った噂を取り消してもらいに来た!僕と勝負してください」
芝居がかった動きで先輩にビシリと指をさしてやった。
「お前、この間コテンパンに返り討ちにしてやっただろう!」
「ケンカじゃ勝てない!だから、放課後、バスケットで勝負してください!」
「バカじゃねーの!?お前ごときが俺にバスケで勝てるわけで―だろ!」
完全に見くびっている様子。
これでは勝負を受けてもらえない。
「逃げるんですか?先輩」
「何だと!?」
僕の胸倉をつかんできた。
沸点が低い。
こんな安い挑発に乗ってくれるとは・・・
周囲にたくさんの目があることを思い出し、少しだけ冷静さを取り戻す先輩。
こうでなければ。
この場でケンカになったら即終了だった。
「僕が勝ったらウルハとみんなの前で間違いを認めて謝罪してください」
「はっ、万が一にも俺には勝てねーよ」
「もし、僕が負けたらみんなの前で先輩に謝罪します」
「絶対だな!?」
「男に二言はありません」
ドンと胸を小突かれよろめく僕。
「放課後体育館で待っとけ!教育してやる」
「望むところです」
ピンと張りつめた空気のまま、クラスメイトと共に自分たちの教室に戻った。
教室に帰りながら手を見ると、手が震えているのに気づいた。
僕が光山先輩の教室に行った理由の目的は2つ。
1つ目は、『みんなが事実のような扱いになっている噂』を、『光山先輩が言っているだけかもしれない』と言う疑惑に移行させること。
全員が間違いだと思ってくれなくていい。
「間違いなのかもしれない」と思う人が出るだけでいい。
それを出来るだけ多くの人の前で公言できれば御の字。
2つ目は・・・これは明日でいいか。
スマホを取り出し時間を確認した。
「・・・よし」
僕はウルハと共に体育館に来た。
放課後、噂を聞きつけてかなりの人数がギャラリーとして集まっていた。
「光山先輩、来てくれたんですね」
「お前の土下座を見に来たぜ」
謝罪が土下座になってるし・・・
いかにも悪役と言う感じに、光山先輩だけでなく、取り巻きもそろっている。
ある意味助かる。
バスケットコート中央に光山先輩と僕は対峙した。
ウルハはコートの外から見守ってくれている。
「僕が勝ったら、先輩が流した嘘の噂を取り消してもらいます。」
僕は声高らかに言った。
いうならば、これが目的だからだ。
「俺が勝ったらおめえがこの場で土下座だ」
「それでいいです」
「勝負方法はなんだ!?フリースローか?」
「1対1(1ON1)にしましょう」
「ははーん、1人なら差が出にくいと思ったか?」
バスケットは味方にパスできるから追い詰められた時の対処法は複数ある。
しかし1対1の場合、それができない。
自分で切り抜けるしかないのだ。
「素人とは違うんだよ。ちょっと練習したって俺からボールは取れねえぞ!?」
「先輩はバスケ部だし、ハンデをもらいますよ!」
「はあ!?甘いこと言ってんじゃねぇ!」
「20P先取制で、先輩は3ポイント禁止・・・で、どうですか?」
「ふっ、舐めてんのか!?お前、そんなんで俺に勝てる訳ないだろ!アーク内だけで十分だぜ」
『アーク内』は確か、ゴール下ってことだったはず。
1ポイントしか打てないということ。
これは嬉しい。
「じゃあ、いいんですね」
「はっ、吠えずらかかせてやるからな」
1ON1のバスケットのルールは割と柔軟だ。
スタートのタイミングはなんとなく。
コート中央でスタートする。
1人ずつしかいないから、相手からボールを受け取ったらスタートだ。
ゴールに叩き込んだらポイント。
単純だ。
先行は譲ってくれた。
完全になめ切っているみたいだ。
いい傾向だ。
「ほらよ」
(パスッ)光山先輩からボールを受け取った。
ドリブルで走りだそうとした次の瞬間、ボールは奪われていた。
全力で追いかけたが、早速ゴールを奪われた。
「へへっ、どうよ!?」
多分、この間ほんの数秒。
さすがだ。
なにがなんだか分からないうちに1ポイント取られた。
次も僕のボールからスタートだ。
先輩からのパスから始まる。
1ON1ではホイッスルも何もない。
なんとなくスタートする。
あえて言うなら、パスを受け取ったのが合図だ。
「ユージ!頑張って!」
ウルハの応援、嬉しいけどねっ。
「バスケ部と練習したドリブルー!」
「おらあ!」
先輩が目の前を通り過ぎたと思ったら、既にボールを奪われている。
追いかけるが、身体でガードされてボールに触ることもできない。
光山先輩がゴールのためにジャンプした瞬間、勢いで弾き飛ばされた。
僕はその場で尻もちをつくことになった。
「大丈夫かぁ!?めちゃくちゃ素人じゃねえか!よくそれで俺に挑んだな!」
次だ。
(バスッ)ボールを受けたら全力でドリブルで進む。
先輩の肩がぶつかり、よろけたところにボールを奪われた。
ただ、先輩はすぐにゴールに向かわない。
完全におちょくられている。
ニヤニヤしながら先輩がドリブルしている。
取りに行っても、右手にあったボールは、左手でのドリブルに変わっている。
クロスオーバーと言ったか。
目の前で右手から左手にボールが移るフロントチェンジはまだ見えるけど、厄介なのは、先輩の身体の向こう側でも右左変えられている。
先輩の身体の向こう側だからボールが遠い。
ただでさえ取れないのに、余計に取れない!
先輩はこっちにゆっくり歩いてくるだけなのに、ボールは遠くて全然取りに行けない。
バックチェンジウォークってのがこれか!?
バスバスというボールとコートがぶつかると音と、キッキッというシューズが擦れる音が体育館に響く。
最初大盛り上がりだった観衆も一方的すぎる試合に次第に静かになっていった。
騒いでいるのは、光山先輩の取り巻きたちくらいだ。
『やる気あんのか!?』とか『よくそれで試合申し込んだな!!』とか煽りまくってる。
先輩は3ポイント禁止だ。
必ずゴール下からシュートする必要がある。
僕はそこに飛び込んでいけばいいだけだ。
先輩のシュート阻止に飛び込むと、左ひじであからさまな防御された。
これはやりすぎだ。
明らかなファウル。
ただ、1ON1に審判なんていない。
これを機に、ファイルが確実に増えた。
ついに単なるタックルで吹っ飛ばされることも。
取り巻きたちが騒ぐたびに光山先輩は、調子に乗ってファウルがエスカレートしていく。
スコアは『0:18』圧倒的に負けている。
しかも、こっちはボロボロ。
まだか!?
あれは、まだか!?
(ズバ――――ン!)もう一度先輩のゴールがネットを揺らした。
これで『0:19』絶体絶命だ
先輩→強者、僕→弱者の構図が完全に出来上がり、周囲に染みついている。
そして、プレイスタイルから、先輩→悪のイメージがつき始めた。
(ピンポンパンポーン)『3年光山雄平、光山雄平、至急職員室に来なさい―繰り返す・・・』
「ああ!?」
「いいんですか?先輩。行かなくて。別に僕は待ってますけど!?」
「はっ、土下座確定でぶるぶる震えながら待ってろ。その方が面白そうだからなぁ」
光山先輩は絶対的な勝利を確信している。
「負け確定だからな。こっから逆転なんかできる訳ねぇだろ!」
「だーはっはっはっ!」
取り巻きたちも煽りまくってる。
光山先輩は、先天的か、後天的か分からないが嫌な性格だ。
人がもっとも嫌がることを本能的に知っていた。
だから、ここでわざと、とどめを刺さずに先に職員室に向かった。
敗北直前でみんなに囲まれて待つしかない僕がどんな精神状態になるか、そこまで考えてだろう。
先輩にタックルされ、倒れた状態だった僕はゆっくり起き上がって、呼吸を整えた。
「ユージ!」
ウルハがタオルを持って駆け寄ってくれる。
「ウルハ・・・これでいいんだ。帰ろうか。先輩は戻ってこない」
「・・・え?」
「後は明日だ」
「どういうこと!?」
「いいんだ。とりあえず、行こう」
僕はウルハを連れて教室に戻り、荷物をまとめて家に帰った。
体育館はざわざわと騒がしくなった。
僕が光山先輩の教室に行った理由の2つ目。
光山先輩が圧倒的な悪役と言うイメージ付け。
なんだかんだ言って、光山先輩はバスケ部をインターハイに導いた立役者だ。
雑誌にも載っているそうなので、学校内にも一定のファンがいる。
世の中『勧善懲悪』とはいかない。
白か黒かではないのだ。
『あちら側』の人間に少しでも『こちら側』になってもらえればいい。
どうせこれは、ウルハの『作戦』のお膳立てだ。
僕は表に出るのが得意じゃない。
もっぱら裏方専門だ。
ウルハは逆に、表に出るのが得意だ。
彼女のカリスマ性は表に立った時にもっともその能力を発揮する。
生徒会の選挙の時も演説で大きく流れが変わった。
彼女が前に出て、その背中を守る。
この姿が僕にとって一番理想的な状態と思う。
翌日、この日はアサイチから緊急生徒総会となっていて、全生徒が体育館に集められた。
ちなみに、ここには光山先輩の姿はない。
生徒会長であるウルハが壇上に上がり、今日の会の趣旨を説明し始めた。
僕も一緒に壇上に上がり、付き添いと言う形でウルハの傍にいる。
「みなさん、生徒会長、中野ウルハです。本日の緊急生徒総会の趣旨についてお話します」
この時点では生徒たちは割と静かだった。
ウルハが続けた。
「この学校内の特定の生徒が、女生徒に乱暴を働いている事実があります。こちらのスライドを見てください」
ウルハがそう言うと、体育館のステージの壁に殴られた頬の写真、掴まれた手首の写真がでかでかと表示された。
(ざわざわざわ)一気に生徒たちが騒がしくなった。
「この写真は私自身のものです。私自身も被害者の一人です」
益々体育館は騒がしくなり、進行が一旦止まるほどだった。
ここで、別の生徒会メンバーの『静粛に、続けます』と言うスピーカーからの声に体育館は少し静寂を取り戻した。
「本来、このような壇上に立てる精神状態ではありませんが、幸い私には・・・」
そこまで言って、ウルハは横にいる僕の方を見た。
僕はウルハの傍らで、ウルハの手を握る。
「幸い、私には精神的な支えになってくれる方が多数いました。そのため、なんとかお話しすることが出来ます」
事の重大さを理解したのか、騒ぐ人はいない。
体育館は水を打った様に静まり返った。
誰もが会長の、ウルハの次の言葉を待ったいた。
「被害者の数は正確には把握できていませんが、多数に上る見込みです。過去、現在、未来において、なんらかの被害、もしくは嫌な思いをされた方は、ぜひ名乗り出てほしいのです」
この点において、『誰が』とは一切言っていないのだ。
噂のこともあり、ここにいる誰もが語られないその加害者の名前を共通認識として持っていた。
「あなたのプライバシー保護は約束します。この場で名乗り出る必要はありません。」
ウルハは、力強く続けた。
「私は今日一日、生徒会室にいます。私の他には、カウンセラーの竹橋先生がいますが、その他は、生徒会役員も席を外します」
全生徒が興味を持って、ウルハの話に引き込まれている。
「私は、被害にあわれた、あなたのサポートを全力で行うとともに、被害の全貌を把握し、対象生徒の罪を糾弾していくつもりです」
ウルハは僕の方を見た。
僕はうん、と肯いた。
「被害者筆頭として、私が名乗り出ます。あなたは一人ではありません」
ここで僕があらかじめ準備していたポスターをみんなの前に掲げる。
SNSのアカウントのQRコードが印刷されたものだ。
その上で、ウルハが続けた。
「名乗り出るのに抵抗がある場合は、SNSのアカウントを生徒会室前に張り出しておきます。情報だけでも提供お願いします」
少し間を開けて最後にウルハが言った。
「これ以上被害を拡大させないために私は動きます」
これで緊急生徒総会は終了した。
ウルハはこの後すぐに生徒会室に移動した。
一般生徒たちが教室に戻るまでの少しの時間の間は、僕もウルハの傍にいた。
「これで来てくれるかしら」
「QRコードのポスターも生徒会室前に貼っておいた」
「おそらく勝負は今日中ってとこね」
「うん、じゃあ、僕も教室に移動しておくよ。ナーバスな問題だから男の僕がいるとよくないだろうし」
「分かったわ。後で連絡するわね」
「うん、待ってる」
簡単な挨拶を交わして僕も教室に戻った。
ウルハはカウンセラーの竹橋先生と共に、1日生徒会室に待機だった。
この日生徒会室を訪れた生徒は全部で24名、その内具体的な被害を訴えた生徒は8名。
さらにその内、5名が性的暴行を訴えていた。
妊娠者2名もいて、予想されていたよりも被害は大きいものだったらしい。
生徒会室はすごい状況になったことをウルハが帰宅後に教えてくれた。
僕はウルハの部屋にお邪魔している。
ウルハが聞きたいことがあると言っていたのだ。
「ねえ、種明かしをしてちょうだい。予想以上に被害者が多く名乗り出たわ。なにか仕掛けがあったんでしょ?」
「そうだね。スタートは、ウルハのアイデアだったんだ」
「私?」
「そう、被害者を探すんじゃなくて、自分が・・・って言ってたやつ。そうなんだよ。探すんじゃなくて、自分から名乗り出てもらったんだ」
「そうね。予想以上に名乗り出てくれたわ。全員かどうかは分からないけど」
「確かにね。絶対に名乗り出たくない人もいるだろうから、無理強いは出来ない」
「ウルハは、スクールカウンセラーの先生を通して被害を警察に届けてもらったじゃない?」
「うん、そうね」
「当然、学校はこの事実を知っているわけで、光山先輩の推薦先の大学にも伝えただろうね。かなり重大なことだったし」
「へー」
「そして、推薦が取り消しになった。それがバスケットのあの日だよ」
「え?じゃあ、光山先輩が呼び出されたのってそれだったの?」
「霧島先生からの話では、元々問題は学校側の耳にも入っていたらしい。ただ、かなりナーバスな問題だし、全貌が分からないこともあって、動けなかったらしい」
「そうでしょうね・・・」
「僕が事前に霧島先生に事の予想を伝えて、現実になった物だけ教えてもらっていたんだ」
「先を読んだってこと?」
「そう。個人情報だからペラペラは立場的にしゃべれないだろう」
なるほどとウルハが頷いた。
「それで、推薦取り消しの情報を伝える呼び出しの放送のタイミングを放課後の決まった時間にしてもらっていた」
「え?試合時間なんてコントロールできないじゃない。じゃあ、完全に負けた後に呼び出しがあったかもってこと?」
「うん、そうだね」
「そもそもあの試合は何だったの?ボロ負けだったじゃない」
「はは・・・不甲斐ないです・・・ただ、あの試合の目的は『色分け』でした」
「色分け?」
「そう、『こちら側』と『あちら側』。人は弱い方を応援したくなるから。僕がクリーンプレイをする一方で、圧倒的に強い光山先輩が圧倒的有利なのにラフプレイだったし・・・」
「ユージ?」
ウルハの表情が少し不安そうだった。
「さて、人はどちらを応援したくなるでしょうか?」
「・・・」
「もちろん、もう一つは、これが『噂であること』と『光山先輩自身が流した』と言うことをみんなに認識させる意味もあった」
「そんなことのために、ユージはケガを・・・」
確かに、打ち身は増えた。
でも、骨が折れた訳でも皮膚が裂けた訳でもない。
ウルハの心と身体の傷に比べればどうと言うことはない。
「そして、とどめのウルハの演説。被害者は普通名乗り出にくいものだ」
「そうでしょうね・・・」
自分の心境を振り返っているのだろうか、ウルハの表情がわずかに暗くなった。
「それを、学校で一番有名なウルハが名乗り出ることで、『一人じゃない』と思わせることが出来た」
「なるほど・・・」
「多分、光山先輩は退学が避けられないんじゃないかな」
「一人二人ならばまだしも、結構な人数になったし。警察沙汰が増えるうえに、裁判に発展するかもね」
「そこまで・・・」
「実際、ウルハのお父さんとお母さんもかなり怒ってたよね」
「うちのお父さんならやるわ・・・地の果てまで追い詰めるわきっと・・・」
「僕の予想では、1週間後には弁護士を通して示談が持ちかけられると思うよ」
「そこまで予想がついているのね・・・」
「光山先輩は2週間から1か月の停学の上、退学になると思う」
「・・・」
「大丈夫かい?」
ウルハの手を取る。
ほんの少しの間でも付き合った相手だ。
絶望的な予想を聞かされたら、同情したのかもしれない。
「やってやったわね!」
「え?」
「私に乱暴した挙句、ユージにもケガをさせて・・・胸がすっとしたわ」
「同情したりは・・・?」
「無いわね。元々好きじゃないわ」
「・・・」
「考えてみれば、ユージの嫉妬の顔が・・・素敵だった。ぞくぞくした。キュンキュンした・・・私はそこに自分でも気付いていなかった・・・だから間違えたのね」
Sだ・・・この人絶対的なSだ。
これまでも、そうだそうだとは思っていたけど、めちゃくちゃSだ。
気付けば、ウルハの顔がすごく近いところにあった。
「でも、もう間違わないわ。ユージの悔しい顔が嬉しいなんて、そんなの異常だった」
ウルハの顔を恐る恐る覗き込んだ。
「やっぱり好きな人には笑顔でいてほしいわよね」
そこには、ここ最近で一番きれいな彼女の笑顔があった。
ああ・・・これだ。
僕の心を掴んで離さないのは、この笑顔だ。
僕は何度この笑顔に心を射抜かれてきたのだろう。
この笑顔のためなら僕はなんだってできるんだ。
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