Appendix: Tips for "Over the Clockspeed!"
大野 夕葉
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「ここでは、Over the ClockSpeed! A-0 Steppingに登場した技術用語を解説していくわ。単語の末尾に※が付いているのはOver the ClockSpeed! オリジナルの用語で、それ以外は実際の半導体業界で使われている用語よ」
「お話の舞台は二〇一九年なんだけど、特に米印のついていない物に関しては二〇二一年現在の情報も踏まえてるものもあるよ」
『科学技術高等学校』(かがくぎじゅつこうとうがっこう、科技高、かぎこう)※
「JCRAが全国に十二校設立した、計算機工学や半導体工学を専門的に学ぶ計算機工学科を持つ学校のことを総称して科学技術高校と呼ぶわ。扱いとしては国立に近いから、授業料はかなり安く設定されているの」
「本来ならあり得ない額が必要な半導体試作設備を部活単位で持てたりとか、計算機工学科では大学クラスの計算機工学、半導体工学なんかを勉強できたり色々と無茶苦茶な高校だね」
「そうね。年間の維持費でいくら掛かってるのか考えたくないわ」
「あと特徴的なのは、計算機工学や半導体工学を専門に持つ大学と、半導体工場の両方が近くにあるという条件かな。計算機工学科の先生を呼ぶ都合や、実際に半導体を製作する試作設備に使う材料調達の都合でこうなったんだってさ」
「科技高の他にも、私立や国立の大学の付属高校で独自の計算機工学科を持っているところもあるわね。そういったところにもJCRAは補助金を出してるそうよ」
『若松科学技術高等学校』(わかまつかがくぎじゅつこうとうがっこう、若松科技高、わかまつかぎこう)※
「JCRAによって会津若松市に設立された科学技術高校の一つよ。普通科と計算機工学科があって、どちらかといえば計算機工学科のために設立されたといっても過言ではないわ」
「計算機工学科の定員が多くないのも相まって、計算機工学科の倍率はかなり高いよ。毎年六十人くらいしか取らないんだ」
「一方、普通科は地元への見返りとして設立されただけあって普通の高校の普通科と変わらないぞ、定員も二百五十人くらいあるしな。とはいえ偏差値は比較的高めに出ることが多くて、会津若松市の普通科高校だと二番目だったかな?」
「そうね。悠が入れたのが一番のミステリーって言っても過言じゃないわ」
「ちなみに、普通科の生徒は計算機工学科の生徒との交流は多くない。好き者が普通科からごくまれに計算機工学系部活に入ることがあるくらいだよな」
「カリキュラムが全然違うから仕方ないわね。シュウと悠、それに杉島君が普通科で、私や結凪、氷湖や道香は計算機工学科よ」
『計算機工学科』(けいさんきこうがくか)※
「アタシたちが所属してるのが、この計算機工学科だね。ギリギリまで高校の必修授業を削って、空いた時間に大学の先生や現役の技術者さんによる計算機工学や半導体工学の授業が入ってるんだ」
「さらに計算機工学科の中でも、論理設計専攻、物理設計専攻、半導体工学専攻と大きく三つの専攻がある。共通の授業もあれば、専攻独自の授業もある」
「共通授業ではコンピュータの歴史や原理なんかの基礎を、専攻の独自授業ではそれぞれの専門に関して実習や授業で勉強するんだ。あとは興味に応じて選択できる選択授業もあるよ。とはいえ、計算機工学科の授業よりも詰め込まれた高校の必修授業のほうが勉強は大変だったりしてね」
「共通授業で習うから、私も簡単なものであれば論理設計、物理設計は出来なくもない」
「アタシも半導体工学をちょっとかじったけど、氷湖にはやっぱり全然敵わないんだ。蒼が論理設計専攻、アタシと道香が物理設計専攻、氷湖は半導体工学専攻だね」
『電子計算機技術部』(でんしけいさんきぎじゅつぶ、コン部)※
「若松科学技術高等学校に存在する、二大計算機工学系部活の一つよ。半導体に関する全て、つまり論理設計から実際の試作までを実践的な環境で行うために設立された、開校当時から続く部活ね」
「略称は、電子計算機をコンピューターと言い換えた上でその頭を取った『コン部』だね。今は主に中央処理装置、いわゆるCPUの開発を主にしているけど、部員が多かったころはそれ以外の色々な半導体も手がけていたんだってさ」
「それが『魔の八月』と呼ばれる事件を契機にバラバラになってしまって、A-0 Stepping開始時点ではライバル部活の微細電子工学研究部に併合されそうになっているわ」
『電子計算機』(でんしけいさんき)
「歯車などの機械的な部品を使わず、電気の流れを用いて計算を行う装置を全部まとめて電子計算機と呼びますっ。CPUやGPUといった大きなチップはもちろん、スマホのチップからスーパーコンピューターのチップまで、全部ひとくくりに電子計算機なんです」
「チップ単体はもちろんのこと、幾つかのチップを組み合わせて動くようにしたシステムそのもの、例えばパソコンとかスマホ自体のことを指して電子計算機、と呼ぶことも多いわね」
『中央処理装置』(ちゅうおうしょりそうち、CPU:Central Processing Unit、プロセッサー)
「コンピュータの中核を担う部品ね。よく人間の脳に例えられる通り、全てのチップに対する指示やプログラムの処理、計算などを一手に担うわ。プロセッサー、と呼ばれることも多いわね」
「当然必要とする回路の規模も大きくなるし、でもノートパソコンやスマホにも使うから最先端の製造技術で作られることも多いよ。そのほうが面積を小さくできたり、消費電力を小さくできたりするからね」
「もちろん、CPUだけじゃ出来なかったり遅い処理もあるから、実際は他のチップと協調して動作することになるわ」
「何でもできる分、特定の処理だけを高速に実行するために設計された専門のチップと比べてしまうと処理速度はどうしても遅くなるんだよ」
「有名な特定処理に特化したチップは画面周りの計算を行うGraphics Processing Unit、『GPU』ね。GPUで出来る計算はCPUでももちろん出来るんだけど、処理速度が何桁って単位で変わってきちゃうのよね。だから、画面を出力できるCPUっていうのは専用のGPUを同じ半導体に内蔵しているのよ。CPUのコアで計算をしている訳じゃないわ」
「餅は餅屋、ってことだあね」
『日本計算機研究開発機構』(にほんけいさんきけんきゅうかいはつきこう、JCRA:Japan Computer Reserch and Develop Agency、ジャクラ)※
「1990年代までかなり強かった日本の半導体だけど、アメリカとの貿易摩擦があったり標準化に失敗したりして逆風がどんどん強まっていたんだ。そんな中で巨額な半導体投資を企業だけで行うのは難しくなるということで設立された国の機関がジャクラだよ」
「ここで開発された基礎技術を応用する形で、NEMCエレクトロニクスさんや武蔵通さんなどの民間企業さんは最新鋭の半導体を開発し続けていますっ」
「それに、半導体技術の継承を掲げて全国各地の半導体工場の近くに計算機工学、そして半導体工学を学べる科学技術高校を設立してるよ。ここ、若松科技高もその一つだね」
『集積回路』(しゅうせきかいろ、IC:Integrated Circuit)
「複数のトランジスタを一つの半導体に作りこんだものを総称して、集積回路と呼ぶわ。原理的にはトランジスタを二つ一枚のシリコンに載せたらそれもICよ」
「さらに、数万を超えるトランジスタを集積したICのことをLSI、エルエスアイと呼ぶ」
「現在のICはトランジスタだけじゃなくて、トランジスタ同士を結ぶ配線はもちろんのこと、抵抗やコンデンサといったアナログ回路、それを使った電源回路やセンサーなんかも一つのチップに作りこまれることが多いわね」
「用途も様々。CPUやGPUといった計算ロジックが主なICから、加速度や温度といったセンサーと制御回路のICなんかもある」
『大規模集積回路』(だいきぼしゅうせきかいろ、LSI:Large Scale Integrated Circuit)
「ICのうち、大体数万トランジスタやそれ以上のトランジスタを集積したものをLSIと呼ぶよん。ウチで作ってるのも厳密に言えばLSIだね、最近はどのチップも数万とかのトランジスタを集積しているからICとほぼほぼ同じ意味になりつつあるよ」
「現代のパソコンに使われるCPUなんかは数十億トランジスタを集積している」
「パソコンの中には、CPU以外にも多くのLSIが搭載されてるよ。GPUももちろん、チップセットやSSDのコントローラーなんかも全部LSIだよね」
『NEMC-PC98』(えぬいーえむしー・ぴーしーきゅうはち)※
「NEMCが作っていた、16ビット、そして32ビットのプロセッサーを使う古いパソコンのシリーズですっ。一時期は日本のパソコンのシェアの多くを取って、ほぼ独占状態にまで至りました」
「でもアメリカで発表されたPC互換機が主流になっていくと、使用する側から見れば出来ることは同じなのに、独自規格の多いNEMC-PC98はどうしても価格が高くなってしまってシェアを続落させて……最終的にはPC互換機の開発にシフトして、PC98の開発は終了してしまったわ」
「上で走るOSはPC互換機と同じDOSやWindoxなので、ドライバやWindoxを対応させる費用がある意味余分になってしまったんです。それに、パソコンの機能を拡張する拡張カードや様々なチップも多くがパイの多いPC互換機仕様になってしまって、独自の仕様を持つPC98への対応が難しくなったという背景もありました」
『MSE』(えむえすいー)※
「1980年代に普及の始まったパソコンは、パソコンの機種ごとにアプリケーションを作り直さないといけないくらいに互換性がなかったわ。こういったパソコンを一つの規格に統合して、相互に互換性を持たせたのがMSEという規格よ」
「ですが、1990年代に入るとPC98やPC互換機といった新しいパソコンが勢力を伸ばしてMSEはどんどん駆逐されていってしまいました。PC98も結局はPC互換機に押されてしまい、日本で開発された規格は世界標準になれずに消えて行ってしまいました」
『NEC-PC98』『MSX』(えぬいーしー・ぴーしーきゅうはち)(えむえすえっくす)
「……これの解説、必要かしら?」
「上二つの解説と完全に一致しちゃうもんね」
「メタいですねえ……」
『半導体』(はんどうたい、Semiconductor)
『ダイ』『シリコンダイ』『シリコン』(Die、Silicon Die、Silicon)
「金属などの導体と、ゴムを始めとする絶縁体の間くらいの抵抗を持つ素材のことを、半導体と言う」
「物質としては珪素やゲルマニウム、電力用の半導体では炭化ケイ素、SiCや窒化ガリウム、GaNなんかも使われるわね。ここから発展して、半導体に様々な元素を加えることで新しい特性を持たせた不純物半導体、そしてそれを組み合わせて作ったダイオードやトランジスタといった半導体素子のこともまとめて半導体と呼ぶわ。さらには、ダイオードやトランジスタを大量に作りこんだICやLSIのことも半導体、と呼ぶことが多いわね」
「不純物半導体には、リンやヒ素を少し添加したn型半導体と、ホウ素やアルミニウムなどを添加したp型半導体がある。n型とp型を隣り合わせに作ったものが、電流を片方向にのみ流すダイオードという素子。n型でp型を挟んだり、p型でn型を挟んだ素子が増幅・スイッチ機能を持つトランジスタ」
「どうしてn型とp型を組み合わせるとそういう機能が現れるのかというのは、n型のキャリアやp型のホールと呼ばれる電気が伝わる原理の違いによるんだけど……ここで説明しようとすると多分技術書一冊分くらいの解説が必要になっちゃうからやめておくわ」
「作中でも、色々な意味で使われる。ある意味分かりにくい単語」
「示すものが広いから、前後の文脈から素材の話か、素子の話かを判断しないといけないのよね。後工程で切り分けられた後の半導体のことはダイやシリコンダイと呼んだり、半導体素子のことを素材の珪素からシリコン、と呼んだりもするわ」
『珪素』(けいそ、Si:Silicon、金属シリコン)
「計算機用の半導体で主流なのは、いまだにこのケイ素。この地球上に一番多い元素で、最先端の半導体素子から窓ガラス、それに公園の砂まで全部この珪素の化合物」
「あまりにもありふれてる物質だから、半導体の原料は砂と同じって言うと結構びっくりされるんだよね。実際に半導体材料に使われるシリコンインゴットはほぼ純粋な珪素の塊で、ウエハーと呼ばれる円盤状で提供されるよん」
「この珪素単体でも扱いは半導体で、元素半導体と呼ばれる。でも、実は純粋な珪素の塊は電気をほとんど通さない」
「結晶中の電子がみっちり詰まっていて、電気を伝えるための電子が余ってないんだよね。そこで、電子を余裕に持たせたり、電子を足りなくしたりするために不純物を入れる。そうすると、電子は余ってる方から足りない方に流れるってわけ」
「これが、半導体素子を作る上でわざわざ純粋な珪素の塊に不純物を添加して不純物半導体を作る理由」
『EUV』(いーゆーぶい、Extreme UltraViolet)
「波長が十三.五ナノメートルと非常に短い、次世代の露光に使われる光がこのEUV」
「小さなトランジスタを正確に作るために縮小露光を行うんだけど、どこまで綺麗に映るかを決めるのに光の波長が大きく影響するんだよね。波長が短いEUVは、7ナノメートルプロセスとかの最先端の半導体を作るのに使われるんだ」
「でも、このEUVの光を作るのはとても大変。今は主にプラズマを光源に使うけど、大きな電力を使うわりに光が弱い。光が弱いと、どうしても広い面積をはっきりと露光させるのが難しい」
「それに、プラズマを作るのに超強力なレーザーを使わないといけないんだ。それの効率自体はともかく、純粋な必要エネルギーが多くてね……。お陰で露光に時間が掛かるし消費電力も大きいし、量産するときの一装置当たりのウエハー処理数が少なくなっちゃうんだよね。それに光の特性も違って、いわゆるレーザーじゃないってのも相まって非常に開発が難航したんだ」
「そのお陰で、今でもEUVの露光装置は非常に値段が高いし、装置自体のサイズもかなり大きい」
「最近になってようやく実用化されて、最先端の量産ラインに投入され始めたね。それでもこのEUVを使ったシリコン、それにEUVの露光装置自体の数が作れないみたいで、半導体供給のひとつの関門になっちゃってるんだってさ」
「このEUV技術の開発が難航している間に、ArFと呼ばれる既存の露光技術を延命させるために様々な技術が生まれた」
『チップ』(Chip)
「半導体のウエハー、珪素の薄い円盤は二十センチや三十センチと大きい。でも、一つのICで全部を使うことはほとんど無い。だから、同じICの回路をウエハー上に大量に焼きつけることで製造を行う。これを素子ごとに切り離した半導体の一片をチップ、と呼ぶ」
「さらには、その素子をサブストレートと呼ばれる基板に乗せてパッケージングまで行った素子のこともチップ、と呼称しますっ。私たちはどちらも作ることになりますねっ」
「半導体のところでも説明したけど、切り分けられた半導体の一片のことをダイ、シリコンダイ、もしくはシリコンとも呼ぶことがある」
『微細電子工学研究会』(びさいでんしこうがくけんきゅうかい、電工研、でんこうけん)※
「コン部のライバル部活として、より効率よく技術の習得を行うべく作られたのが電工研よ。こちらも開校当時から存在する部活ね」
「やってることは全く同じで、部室はちょっとだけ電工研の方が大きいかな。魔の八月でコン部から大量のエンジニアが流入したせいで、部内のいざこざが大変らしいよ」
「でも開発力は一流で、去年のCPU甲子園はここ、電工研が制しているわ。アジア大会も突破して世界大会まで行ったけど、肝心の世界大会のチップはかなり不出来だったみたいね」
「ちょうど世界大会に向けて本格的に動き始める時期に、うちから最低転部期間を終えたエンジニアたちが流入してったから多分そのせいじゃないかなあ」
「今の部長は平原崇文(ひらはら たかふみ)、そしてコン部の前論理設計主任だった星野一希(ほしの いつき)先輩が所属しているわ」
『クリーンルーム』(Clean Room)
「半導体は、小さな埃でも何百、何千という数のトランジスタの露光に失敗するくらいに小さい。だから、空気中の埃や塵を極限まで取り除いた空気で満たす。これがクリーンルーム」
「それに、人間の肌から出る垢や髪の毛に含まれるナトリウムも半導体の大敵で、ちょっとでも混入した瞬間に半導体としてまともに動かなくなっちゃうんだよね。だから、このクリーンルームに入るときには全身を専用の服やカバーで覆って入ることになるよ」
「空気の塵の量は、東京ドームを満たしたとしても数千万個以下という非常に小さい量に抑えられてる」
「いまいち分かりやすいんだか分かりにくいんだかって例えだね」
「……結凪に言われると、複雑。普通の部屋と比べると千万倍くらい綺麗な空気」
『ArF』(えーあーるえふ)
「ArFは、今でも多くのプロセスで露光するのに使われている光のこと。正式名称はArFエキシマレーザーと呼ばれる」
「ArFはアルゴンとフッ素の原子記号だね。この二つを混ぜた混合ガスに電気を思いっきり流すと、強い一波長のレーザーが出るんだよ。波長は百九十三ナノメートルで、波長十三.五ナノメートルであるEUVと比べちゃうとかなり長いのが判るよね」
「それでもEUVより強い光を簡単に出せるし、EUVが遅れている間に様々な延命技術が開発されたから、今でも現役で使われている」
「Intekなんかは延命技術を磨きまくった結果、ArFレーザーを使って10nmプロセスまで進めることに成功してるよ」
『露光装置』(ろこうそうち、ステッパー、縮小投影型露光装置、しゅくしょうとうえいがたろこうそうち)
「露光装置は、フォトリソグラフィと呼ばれる半導体の回路形成の肝。ステッパーとも呼ばれる」
「写真を撮るように回路の原版であるマスク、レチクルに光を当てて、それをレンズを通してシリコンウエハに写して露光させるのがこの装置の仕事だね。今は大体4倍や5倍のサイズで作ったマスクを縮小して写すから、縮小投影型露光装置なんて呼ばれるよ」
「日本のカメラメーカーが結構強い分野で、ArFを使った露光装置ではそれなりのシェアを持っている」
「逆に、EUV露光装置はオランダの会社一強なんだけどね」
『イオン注入装置』(いおんちゅうにゅうそうち)
「半導体のところで説明した通り、珪素に微量な元素を添加することでp型とn型、二種類の半導体を作るの。それを組み合わせてトランジスタを作るんだけど、当然ながらウエハーに直接化学的に添加すると小型化に限界があるわ。だから、ウエハーの時点では特に特性を持たないただの珪素の単結晶なの」
「というわけで、後付けで添加したい元素を打ち込んで半導体をp型とn型に作り変えるのがこのイオン注入装置の仕事だよ。イオンを通さないレジストに露光装置でパターンを焼きつけて、現像して穴が開いたところにこのイオン注入装置を使って半導体を作っていくんだ」
「フォトリソグラフィーで作りつけた設計図を実際に動く半導体にするための、重要な装置ね」
『ダイシングマシン』(Dicing Machine)
「チップのところでも触れた通り、ひとつのウエハーには複数のICが作られる。それを切り分けてチップにするのが、このダイシングマシン」
「もちろんチップ同士の間には余白があるんだけど、その幅は百マイクロメートル以下ってかなり小さいんだよね。この細い隙間をぶれることなく切り離す、超精密機械だよ」
「ダイヤモンド製の丸くて薄い刃を回転させて、狂いなく真っすぐに切る」
「商業チップだとこの余白が小さいほど多くのICをウエハーに作れるから、精度がとっても大事なんだ」
『前工程』(まえこうてい)
「まっさらで純粋な珪素の塊であるシリコンウエハーに、フォトリソグラフィ技術を使ってパターンを焼き付けて、イオン注入装置、CVD装置などを使って半導体素子と配線を作りこんでいく工程のことを、前工程という」
「この行程中では、ウエハーはずっと一枚の円盤のままだね。一枚の円盤であるウエハーからチップを切り出して、個別のチップにするのは『後工程』の仕事になるよ」
「最近の前工程はどんどん複雑化していて、工程の数と必要な時間が爆発的に増加している。一般的にプロセス技術が進めば進むほど、より複雑で、多くの工程を必要とする」
「半導体が一気に供給不足に陥ったり、逆に急に供給過剰になったりするのはそのせいだよ。何しろ工場から立てようとすると最短で一年半くらい掛かるからね」
「クリーンルームと装置が揃っていたとしても、前工程と後工程、それに検査まで入れると概ね数か月から半年くらい掛かる。だから急に需要が増えると供給不足になるし、逆に需要を読み違えると一気に余る」
「供給不足から作りすぎて余って半導体価格が暴落しちゃうのは一つのサイクルになってて、このことをシリコンサイクル、スーパーサイクルと呼ばれてるよ。大体三年から五年くらいの周期で起きてて、そのたびに経営体力が無い企業が脱落していくんだ」
「これが、後述のファブレス企業、そしてファウンダリの勃興に繋がってる」
『後工程』(あとこうてい、ごこうてい)
「半導体が作りつけられたウエハーをダイシングマシンで切断して、サブストレートに狂いなく置いたり、ピンと細い金の線で配線した後樹脂で封じたりすることで見慣れたICの形に仕上げるのが、後工程」
「はっきり言って地味なところではあるんですけど、半導体の欠片をICとして使いやすく仕上げる重要な工程なんですっ。ここが甘いと寿命が短くなってすぐに壊れてしまったり、性能が出なかったりもするんですよ」
「最近だと、微細化技術の行き詰まりに伴って再注目されてる分野でもある」
「サブストレートにもチップを埋め込んだり、半導体のダイどうしを重ねたりすることで、一つのパッケージの中のトランジスタ数を増やす技術の研究開発が盛んなんですよね」
「ダイの形に切り分けられた半導体を一つのパッケージに組み立てる工程のことを、特にパッケージングとも言う。ここが、今熱い分野」
『マウンタ』(Mounter)
「ボードに、抵抗やコンデンサ、トランジスタやICといった部品を正確に置いていく装置がマウンタですっ。最近の部品はチップ部品と呼ばれて、人間がピンセットで置くのも難しいくらいに小型化しています。米粒よりちっちゃいんですよ」
「何千個にもなるそういった部品を人の手で並べるのはほぼ不可能だし、出来たとしても膨大な時間が掛かってしまうわ。だから、人の手に代わって部品を置いていくのよ」
「うちの部活にあるマウンタは、主にわたしが設計したボードの製造に使ってます。超高速で部品が置かれていく姿は、見てるだけで楽しいですよっ」
「他にも、半導体のチップをサブストレートと呼ばれる基板に精密に置く時にも専用のマウンタが使われるわね。後工程においても欠かせない装置よ」
『リフロー炉』(りふろーろ)
「マウンタで実装された部品は、当然はんだ付けをして電気的にも、物理的にも接続しなくてはいけません。そこで、基板丸ごとはんだ付けをするのに使われるのがこのリフロー炉です」
「マウンタで部品を付ける前に、基板には半田ペーストとよばれるクリーム状のはんだを印刷しておくわ。マウンタで部品を置いた後、この半田ペーストを溶かすために大きなオーブンのような機械に入れてボードやチップごと加熱してはんだ付けするのよ」
「その大きなオーブンが、リフロー炉なんです。もっとも普通のオーブンじゃなくって、非常に細かい温度調整が可能なのが特徴です。チップや部品、ケーブルや基板同士を繋ぐコネクタには耐熱温度が決まっていますから、温度を上げ過ぎると壊れたり溶けたり燃えたりします。それに、急に温度を上げ下げするとひびが入ったりしてダメになっちゃうんです」
「でも、加熱が足りないと今度ははんだが溶けなくて接触不良を起こす原因になるわ。だから、温度プロファイルと呼ばれる決まった曲線に従って温度をゆっくりと、上げ過ぎないように気を付けながら確実に上げてはんだを溶かして、壊れないようゆっくりと冷却するの」
『シリコンウエハー』(Silicon Wafer、ウエーハ)
「素材の意味での半導体である珪素の単結晶の塊を直径二百ミリや三百ミリといった既定のサイズに整えて、それを薄くスライスしたものをシリコンウエハーと呼ぶ」
「素材の珪素はガラスなんかにも使われるんだよね。ガラスはSiO2、酸化ケイ素だから」
「なんなら、道端の石や砂の多くも酸化ケイ素。石英と呼ばれる」
「だから、校庭の砂を集めて炉に入れて精錬すればウエハーを作れるんだよ。技術的には」
「半導体に使うシリコンウエハーは、イレブン・ナインとも呼ばれる99.999999999パーセント以上という超高純度の珪素の単結晶が元。ここまで純度を上げるには、莫大な電力と熱、そしてさまざまな加工が必要になるから、自分たちで作るのは不可能でこそないけど、現実的じゃない」
「ま、そういうことだね。JCRAがわりと安く売ってくれるから、それを買ってくるのがお手軽ってわけ。お手軽、って値段じゃないんだけどさ」
「このウエハーをさまざまな機械で加工して、目には見えないサイズの回路を形成していくのが半導体素子の作り方」
「うっすい銀色の板に見えるけど、密度はわりと小さいから軽いし、何よりすごく壊れやすいんだよね」
「結凪、ウエハーケースに入れずにそんな端を持ったら――」
「げっ、割れた……床に落ちた方粉々じゃん……」
「……言わんこっちゃない。掃除して」
「こういうことを防ぐために、普通はウエハーケースって呼ばれるプラスチックの入れ物に入れておくんだよね。A-0 Stepping表紙の蒼はちゃんとウエハーケースに入れて持ってるから、割れる心配はないよ」
「早く。危ないから」
「はい……」
『リソグラフィ』(Photolithography、フォトリソグラフィ)
「感光性の物質であるレジストを表面に塗ったウエハーにパターンを写して、現像することで回路のパターンを作り出す技術が、リソグラフィ。フォトリソグラフィとも呼ぶ」
「簡単に言えば、フィルムの代わりにウエハーにマスクを縮小して写す工程のことね。半導体をウエハーに作りこんでいく『前工程』の中で一番の肝になる技術よ」
「この工程では様々な装置を使う。スピンコーターと呼ばれるレジストを均一に塗布する装置や露光装置、現像液を使って光を当てたところだけを残す現像装置など」
「ここで作られたパターンを使って、ドライエッチングによって要らない部分の素材を削ったり、もしくはCVD装置という機械を使って別の金属や酸化膜を必要な分だけ付けたりするのよ」
「半導体の微細化は、このリソグラフィ技術の進歩と共にある。トランジスタの最小サイズはこのリソグラフィ技術で決まる」
「また、ボードの製造で配線のパターンを銅箔に焼き付けるにもこのリソグラフィ技術が使われてますっ。もちろん、シリコンの製造に使われるものよりは精度を必要としませんが、こちらは大きなボードを作れるよう大きなサイズの露光装置が使われます。等倍露光も基板製造にはもちろん現役ですっ」
『フォトマスク』(Photo Mask、レチクル、Reticle)
「リソグラフィ技術で焼き付ける元となる回路の絵、原版のことをフォトマスク、特に縮小露光するシリコン用のフォトマスクのことをレチクル、と呼ぶ」
「ArFまでの半導体製造に使うレチクルは大きくて薄くて透明な石英の板に回路の線を遮光性の金属素材とかで描いたものだよ。ここでも珪素の塊を使ってたんだ」
「コン部のファブでも、マスクの製造に使うのはクオーツ、大きくて純度の高い工業用石英の塊」
「プラスチックのフィルムや普通のガラスを使わないのはもちろん理由があって、この二つは熱によって寸法が微妙に大きくなったり小さくなっちゃったりするんだよ。いわゆる熱膨張のお陰で、縮小投影するとき無視できないくらいにサイズが変わっちゃうってわけ」
「さらにもう一つ。ガラスは、紫外線に当たるArFなどのレーザーになるとほとんど透過しなくなる。だから、わざわざ石英ガラスであるクォーツを使う」
「EUVの露光装置だとここでも勝手が違って、確か透過して写せないんだよね?」
「そう。だから、EUVを反射する素材を使った反射型のレチクルになる。これがまた厄介で、新技術がたくさん必要になった」
「例えるなら、今までは懐中電灯の前にパターンを描いた透明フィルムを通した光で露光するけど、EUV露光で使うレチクルはガラスじゃなくて鏡に絵を描いて反射させた光を使うってこと。今までのレンズの前に置くレチクルとは原理から何から違うことがわかるよね?」
「等倍露光のボード用フォトマスクになると、普通のガラスや透明なプラスチックのフィルムなんかも使ったりしますっ。昔で言うところのOHPのフィルムにマジックペンで線を引いたものでも、実は簡単な片面露光で基板を作るマスクとして使えるんですよっ」
「クオーツのマスクは作るのが大変だし、なにより値段が高いんだよ。だけど、ボード用のマスクであれば簡単なものならそれこそプリンタで作れたりもする」
「さすがにプリンタでパパっと作れるレベルのものはあくまでも限定的で、特に現代の複雑な多層基板の量産なんかには当然使えませんが……原理的には、おうちのプリンタを活かしてボードを作るってことも可能なんです」
「同じリソグラフィ技術を使うシリコンとボードだけど、サイズの違いによって有利なモノを使い分けてるってわけだね」
『ドライエッチング』(Dry Etching)
『ウェットエッチング』(Wet Etching)
「リソグラフィで現像まで終えてパターンを作り終えた後、パターンが無い場所だけを取り除く工程をエッチング、と呼ぶ。半導体で使うドライエッチングは、取り除くのにプラズマ化したフッ素系のガスを使って不要な部分を削り取る」
「ドライ、ってあるように、液体の薬品を使わないのが特徴だね。逆に目的の素材を溶かす液体を使って削るウエットエッチングという手法もあるんだけど、ウエットエッチングは等方性という性質があって、液に触れたとこから半円形に化学反応が進んじゃうんだ。だから細く縦長に削りたい半導体加工で使うと上の方が細くなっちゃって、イマイチ使いづらいんだよ」
「ドライエッチングでは高速なプラズマをウエハーに対して直角に当てて、化学反応とプラズマがぶつかる衝撃の両方で削っていく。だから、比較的直角に近い角度が作りやすい」
「ボードの製造では、ウエットエッチングの方をよく使いますっ。配線の幅と銅箔の厚みを考えると少しぐらい角が丸まっても問題ありませんし、何よりボードはそれなりに大きいので大量の銅箔を溶かさないといけません。なので、安価で広範囲の銅を一度に処理できるウェットエッチングが必要なんです」
「基板のウエットエッチングには、塩化鉄(Ⅲ)水溶液とかがエッチング液としてよく使われるよね」
「これをそのまま水道に流すと下水が重金属汚染で大変なことになっちゃうので、使い終わった後の処理が大変なんです……」
『CVD装置』(しーぶいでぃーそうち、CVD:Chemical Vapor Desposition:化学気相成長法)
「CVD装置は削り取るエッチングとは逆に、別の素材を薄い膜を表面に作るための装置。別の素材の膜を高速、かつ均一に形成できる特徴がある。絶縁体であるシリコン酸化膜や、トランジスタの電極に使うタングステン薄膜形成によく使われる」
「特に、最近では原料をプラズマ化したものを使って化学反応を起こしやすくしたプラズマCVD装置がよく使われるね。温度をそこまで上げなくても薄膜が作れるから、熱によって作ってる途中の半導体が壊れたり、素材が欲しくないところまで広がっちゃうのを防げるんだよ」
「他に薄膜を作る方法として、物理気相成長法、PVDという技術もある。銅でチップ内の配線をするときに、銅が広がりすぎないよう防波堤となるバリア層を作らないといけない。そのバリア層を形成する時に、このPVDがよく使われる」
「この2つは薄膜に使う材料の特性によって使い分けてるよ」
『レジスト』(Resist)
「シリコンウエハー自体は、珪素の塊だから当然感光性はない。その上に塗る、光が当たったところで化学変化を起こして特性が変わる素材のことをレジスト、と呼ぶ」
「白黒のフィルムにもポジフィルムとネガフィルムがあるように、レジストにも光が当たらなかった所が残るポジレジストと光が当たった所が残るネガレジストがあるよ。微細化に有利なのはポジ型、って呼ばれてるね」
「また、同じレジストという名前でも、ソルダーレジストと呼ばれるものがボード製造に使われます。こちらはボード表面に塗るとはんだを弾く素材で、不要なところにはんだが付いてショートしてしまう不良を防ぐために使われるんです。基板本体の緑色は、このレジストの色なんですよ」
「どちらも、『次に施される加工』や『はんだ』に耐える、というところからレジスト、と呼ばれるようになったんだよね」
『PE』(ぴーいー、Principal Engineer:主任技術者)※
「PEはJCRAが設定した内部資格で、チップを設計、製造する技術をいくつかに分けたうえで、その技術の責任者になるために必要な資格のことよ。この主任技術者が一人も居ない技術分野に関しては、IPを使わないといけないって決まりがあるわ」
「三百以上ある分野全部の主任技術者認定を全部取るのは大変ってことで、ある一定分野の主任技術者に必要な知識を全部まとめた部門という概念もあるよん。論理設計部門、物理設計部門、電源設計部門、熱設計部門、基板・高速信号設計部門、製造前工程部門、製造後工程部門の七つだね」
「この部門単位で包括してPEの資格を取ることもできて、そのことを部門認定と呼ぶわ」
「分野でさえそれなりに分厚い教科書なのに、部門認定の教科書は辞書だよね、辞書。多分あれで頭叩いたら死んじゃうんじゃないかな」
「私が論理設計の部門認定を、結凪は物理設計、道香が電源設計、熱設計と基板・高速信号設計、氷湖が製造前工程と後工程の部門認定を持っているわ。もちろん、さらに細かい分野で見ると専門以外にもちらほら取ってることが多いんだけど」
「つまり、うちの部活は全部の部門のPEが居て、論理設計から実際の製造まで全部を内製できる、ってことだね」
『IP』(あいぴー、知的財産:Intellectural Property)
「私たちが使う意味でのIPは、既製品で動作確認が済んでいる設計や回路、それに部品のことを指すわ。元の意味だと知的財産ね」
「アタシたちからすると、このIPはPEが居なくても使うことができるんだ。つまり一人もPEが居ない部活でも、このIP、つまりは既製品を組み合わせることでチップを作ることができるってわけ。お金はそれなりに掛かるし、製造だけは他の会社に製造委託することになるけどね」
「もちろん、全部内製出来る私たちにもメリットがあるわ。他のチップと協調して動かないといけない通信路の制御回路や、必要だけど性能の差別化には繋がらない回路なんかはこのIPを使ってしまうことも多いの。全部作ってたら当然一人で半導体を作り切るなんて到底不可能だから」
「実際に売られている商業の半導体でも、同じような理由で他社のIPを購入してきて自社設計の部分と組み合わせてることも多いよね」
『ファウンダリ』(Foundly、ファウンドリ)
「半導体の製造だけを専門に行う企業のことを、ファウンダリ、またはファウンドリと呼ぶわ。製造だけというのがミソで、他の企業が行った設計を製造受諾するだけよ。自分たちでチップを設計することはしないわ」
「これは前工程の所で話した通り、半導体のスーパーサイクルに大きく影響されてるんだ。スーパーサイクルの終わりには概ねどの会社も半導体を作りすぎて余って、そのせいで価格が暴落して利益が激減しちゃうんだよ」
「そうすると、当然経営が成り立たなくなる会社も出てくるわ。特に最先端のプロセス技術は莫大な開発費と量産ラインの整備費が掛かるから、最終的に採算が取れず赤字になるリスクは高まっているの」
「普通の企業だと、『値段が下がったからチップAの生産量を下げて、その代わりに余ったところでチップBを作ろう』なんて出来ないからね。減産してラインが余って結局採算が取れないか、生産量を維持して価格が落ちて赤字になるか、最初から生産量を増やさず需要に応えられないか。結局、どれを選んでも企業の体力がないと生き残れないんだよ」
「そこで、ファウンダリが登場したの。製造専門だから複数の会社のチップを同じラインで作れる、つまり最大キャパシティーの中で柔軟に各社ごとの生産量を調整出来るから赤字になりにくいわ」
「チップを設計する側としては、余計な設備を抱えて大赤字を出すリスクが減って嬉しいってのもあるよね。お互いにWin-Winってわけ」
「一方で、業界としてはデメリットもある。ファウンダリだけが製造技術を握るようになると寡占によって技術の進歩が停滞する可能性もあるし、コストも完全内製と比べると高めになる傾向がある。何より最大の製造量が決まってるから、需要が高まると製造枠の奪い合いになる」
「二〇二〇年から二〇二ニ年にかけての大規模な半導体不足はこのせいね。どこも自社の生産能力を無くしたり減らしたりしてたせいでファウンダリへの需要が飽和しちゃって、どうしようもなくなってる。そういう意味では今までのスーパーサイクルとは様子が若干異なるわ、多くの企業が自社で工場を持たず、製造はファウンダリに大きく依存してるからね」
「かといって自社の製造ラインを拡充するにも莫大なコストが掛かったりそもそも先端プロセスの製造技術の開発をしてなかったりするから新たに生産するのが実質不可能、もしくは消極的にならざるを得ないんだよ。今生き残ってる会社は多かれ少なかれ今までのスーパーサイクルで痛い目を見てるからね」
「ファウンダリも製造能力を拡充しようとはしてるけど、大量の企業から要求される半導体を一気に作れるだけの工場を建設するのは時間もお金も掛かるし、そして政治的な問題も絡んできちゃうのよね。それに、ファウンダリ自身も過剰投資になることを恐れてるわ。結局、これらの理由が絡み合って大規模な半導体不足が発生してるってわけ」
「最先端のラインだと大企業が札束の殴り合いで少ないラインを奪い合ってるって言うし、半導体工場で増産を可能にするための半導体製造関係の装置、それに使う半導体が足りなくて装置が納入されず製造力が増やせないとか、そんな笑えない話もあるみたいだよ」
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