6

「……え?」


 巧也はレーダースクリーンをあらためて見返す。確かにしのぶの言うとおりだった。ステルス機でしかも小型のタイプSにしては、やけにくっきりとレーダーに映っている。


「あ……」


 彼の目の前でレーダースクリーンの光点ブリップが二つに分かれる。顔を上げると、TDボックスも二つに増えていた。

 つまり、敵は二機でピッタリと密集した編隊を組み、一機と見せかけていたのだ。


 ”やられた……ハメられたぞ!”


 これはまずいことになった、と巧也は思う。2対2では明らかにこちらが不利だ。ひょっとしたらエリーたちも同じ目にあっているかもしれない。だが、彼女たちの実力なら大丈夫だろう。さっさと敵を片付けてもらって、こちらの支援に来させないと……


 だが、敵の行動は素早かった。敵のアクティブ・ホーミングミサイルのレーダー波がRWRにキャッチされたのだ。2発のミサイルが11時の方向より接近。接触まで、推定5秒。


「シノ! 回避するぞ!」無線に叫んで、巧也は操縦桿を倒そうとする。が、


『待ってタク! 動かないで!』


 という、しのぶの言葉に慌ててそれを止める。


「なんで? どうしたの?」


『いいから……そのまま、まっすぐ飛んでいて……』


「え……」


 どういうことなのか全く分からないが、巧也はしのぶの言葉に従うことにした。そして2秒後、彼はその意味をようやく理解する。


「あ……」


 2発のミサイルが、彼らの今の位置からは全く見当違いの方向へと飛び去っていくのが見えた。


「な、何が起きたんだ……?」


『クロスアイ・ジャミングを使ったの』しのぶがポツリと言う。


 そうだったのか。巧也は納得する。クロスアイ・ジャミングは、こちらの位置を敵のレーダーに少しずらして表示させるECM(電子戦技術Electronic Counter Measurement)である。それによって、敵のミサイルは本来の彼らの位置とは異なる空域に誘導されたのだ。


 ECMはDFでタクと組んでいた時の”ノブ”の得意技だった。”ノブ”が援護に回る時は、いつも様々なジャミングをかけて敵をあざむいていたのだ。


「ありがとう! やるじゃないか、ノブ!」


 そう言ってしまってから、巧也は慌てて訂正する。


「……じゃなかった、シノ」


 だが、その巧也の言葉は、しのぶの心を大きく揺り動かした。


 ”やっぱり……タクは、シノじゃなくてノブを必要としているんだ……”


 ロックオン警報。それもかなり強い。おそらく敵は肉眼で確認できる距離まで近づいている。そうなるともはやECMの出番はない。格闘戦になる。


『シノ! 援護カバー頼む!』


 巧也の機体が横転した、かと思うと、一瞬で右に旋回して姿を消す。


「りょ、了解!」あわててしのぶもその後を追う。


---


「はぁっ……はぁっ……」


 息が切れる。自分の体力の限界が近いことを、巧也は実感していた。


 敵の2機の連携はほぼ完璧であり、彼はただ逃げ続けるだけで精いっぱいだった。敵に攻撃を与える余裕が、全くない。


 その様子を、しのぶは後方から見つめることしかできなかった。


 助けに行きたい。だけど、どうしても体が動かない。タクがあんなに苦しんでいるのに……


 そんな彼女の目の前で、巧也の一瞬のすきをついた敵機がミサイルを発射。彼の機体にミサイルが迫る。


「タク―! 回避ブレイク回避ブレイク回避ブレイク!」


 しのぶは絶叫する。だが、次の瞬間彼女が見たものは、巧也の機体の真後ろに上がった、爆発の炎だった。


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