16
夕食。絵里香は「一人で食べたいから」と言って、自分の分をトレイに乗せて部屋に入ってしまった。残された三人と町田二尉は気まずい雰囲気の中で食事を済ませ、巧也と譲は部屋に戻る。
「ほら見ろ。言った通りだろ? あいつは性格が悪いって」
ベッドの譲がしたり顔で、自分の椅子に座り
「あいつはさ、お前のこと見下してたんだぜ。お前だけじゃねえ。多分シノのことも、俺のことも、あいつは見下してたと思う。だけど今日、あいつよりもお前の方が正しく判断できた。あいつはお前に負けた、と思ったんだ。見下していたはずのお前に、な。かなりプライドが傷ついただろうな。ま、いい気味だったんじゃね?」
「ひどいよ、ジョー……そんな言い方、ないと思う」
部屋に入ってから最初に巧也が発した言葉が、これだった。夕食からここまで彼は、一言も喋っていなかったのだ。
密かに好意を寄せていた絵里香に「顔も見たくない、声も聞きたくない」とはっきり言われてしまった巧也は、ショックで抜け殻のようになっていた。譲が何を言っても全く反応しようとしていなかった。
譲があえて挑発的な言い方をしてみせたのは、そんな巧也の気持ちを少しでも自分に向けさせようとする配慮の裏返しだったのだが、まんまとそれに乗せられたことに巧也は気づいていなかった。ようやく巧也が自分に顔を向けたことに内心ではほっとしながらも、譲はニヤニヤ顔を崩さず続ける。
「ふん。お前にゃ悪いが、俺はああいう、お高くとまったような女は嫌いなんだよ。ざまあみろだぜ」
「……」
実際、それは半分譲の本心でもあった。巧也が自分をにらみつけているのに気づいた彼は、こんなもんでいいかと思う。
「ま、俺はあいつの気持ちが収まるまでほっとくしかない、と思うがな。お前があいつにしてやれることは、とりあえず何もねえよ」
「……」
ジョーって不思議な奴だな。巧也は思う。彼の言葉には、なぜか説得力がある。
「それはわかるけど……このままじゃ、チームがガタガタだよ……」
「しょうがねえよ、こればっかりは。ま、明日の朝になったら、あいつの気持ちも少しは落ち着いてるんじゃねえか?」
「そうだといいけど……あのさ、ジョー」
「ん?」
「ぼくはね、エリーは君が言うほど性格悪くないと思う」
「へ?」
「性格悪かったら、もっとずる賢いことをすると思う。だけど……なんていうか、エリーはたぶん、純粋なだけなんだよ。だからあんな風に言うことしかできなかった……んじゃないかな……」
「やーれやれ。これが、アバターもエコポ、ってヤツかねえ」
「それを言うなら、アバタもエクボ、だよ」
「ちっ。どうせ俺はバカだよ」
ふてくされたふりをしながらも、譲は巧也の少し元気を取り戻した様子に、心の中で満足していた。
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