10
”……ミサイルだ!”
巧也がそう判断した時には既に彼の体は動いていた。彼の機体は立て続けにフレア(赤外線ホーミングミサイルを回避するための、高熱を発生する
”ふう……危なかった。もう一瞬遅かったら撃墜されてたかも……”
巧也は安堵する。が、それはまだ戦いの始まりに過ぎなかった。
5時の方向からロックオン警報。急旋回でミサイルを回避したせいで、彼の機体はかなり速度を落としていた。そのため、敵に六時方向をやすやすと取られてしまったのだ。おそらく最初に出会った敵機だろう。
「く……くそ……」
敵は今や十分見える範囲に迫っていた。いちかばちか、巧也はアフターバーナーで速度を上げることにする。だが、これを使うと排気の温度も上がるため、赤外線ホーミングのミサイルにロックオンされやすくなるのだ。
スロットルレバーをミリタリーからさらに奥に押し込む。ややあって、アフターバーナー点火を示す轟音と共に、機体がみるみる加速していく。
センサーが敵のミサイル発射を検知、警報を鳴らす。やはり敵機はミサイルを撃ってきた。フレアはさっきのミサイル回避でかなり使ってしまっている。
しかし。
巧也が機体を旋回させると、ミサイルはそのまま彼の機体を追うことなく飛び去っていった。
そう。彼は大きな熱源、太陽に向かって飛んでいたのだ。ミサイルもそれに向けたところで彼は離脱し、見事にミサイルの目標を太陽にすり替えてしまったのである。DFで彼がよく使っていた戦法だった。
さあ、ここからはこっちのターン。速度は十分回復している。巧也は敵の後方に機首を向ける。敵のエンジンは一つ。こちらは二つ。その推力差があれば、おそらく敵の後ろに食らいつくことが出来るはず。
だが敵もそう簡単にそれを許しはしなかった。高度を下げることで速度を上げ、巧也の追撃をかわそうと試みる。それでも彼はじわじわと敵を追い詰め、ようやく六時を取ることが出来た。
ところが、次の瞬間。
目の前の敵機の姿が、いきなり消えたのだ。
”……しまった!”
巧也は後ろを振り返る。ヒラリと敵機が上から舞い降りて、彼の真後ろについた。
”やられた……高Gバレルロール、だ……”
高Gバレルロール。
再び攻撃をかわす立場に戻った巧也の精神的なダメージは大きく、加えて彼はかなり体力を消耗していた。
「はあっ……はあっ……」
息が切れる。これ以上大きなGに、体が耐えられるかどうか。
もう、ダメだ……
巧也があきらめかけた、その時。
「大丈夫ですよ、タク」いきなりの、アイの声。
「……え?」
どういうこと、と巧也が問いかけようとした時だった。
『ジョー、
無線から譲の声がした、次の瞬間、巧也の機体のバックミラーに映っていた敵機が黒煙を吹く。
「……!?」
巧也が振り向くと、敵機が機体を傾け、煙の尾を黒く引いたまま墜落していくところだった。
『おい、無事か、タク?』譲の声。
「あ、ああ……今の、もしかして君がやったの?」
『ああ、待たせて悪かったな。最初の敵を
「……ありがとう。さすがジョーだな。一気に2機撃墜しちゃうなんて」
『なあに、ペアでの戦果はペアのもの、だろ? それに、これで俺は武器を全部使っちまったからな。これ以上敵が現れたら、もう俺もどうにもできねえな』
そう言われて、ふいに巧也は絵里香としのぶのことを思い出す。
「そうだ、エリーたちは……どうなってるんだろう」
その時だった。
『シノ! 応答して! シノー!』
絵里香の絶叫が、巧也と譲の鼓膜を貫く。
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