第394話 旧友のことと
※本日は文章短めです。申し訳ありません。
それと『小説家になろう』で連載していた『肥満令嬢は細くなり、後は傾国の美女(物理)として生きるのみ』の書籍化が決定しました!
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子供が生まれた。
文句なしの慶事。普通の父親であれば仕事を返上して母親となったカレンとしばらく一緒にいたいところである。
なんとっても可愛い。目を開けて両親を見つめ、きゃあきゃあ笑う子を見るとそれだけで幸せになる。アルイーお婆ちゃんをはじめ、それぞれがおっかなびっくりで抱き上げたりもする
ブロッサムもその中の一人であった。
誘拐されたアンジェロを助ける部隊として活動し、様々な引継ぎを終えてからいったん本拠地のほうに戻ってきて――今は自分の腕の中ですやすやと寝ているユカくんを見つめていた。
「いい子でしょ」
「ほ、ほんとに……そうですねぇ……」
カレンの言葉にブロッサムはゆっくりと赤ちゃんをあやしながら呟いた。
……ブロッサムの心にはまだ、部隊員だった友人の死が槍のように突き刺さったままだ。
忠誠を捧げた組織から使い捨ての爆弾にされた苦しみは悪夢のように蘇ってくる。
「ほんとに……かわいい」
そんなブロッサムの心を救ってくれたのが、敬愛するカレンのお腹の中にいた君なのだと……この赤ちゃんは知っているだろうか?
ブロッサムはあの時、爆死してしまった友人が輪廻に還ってその魂の欠片がこの赤ちゃんになって自分のところに帰ってきたのだと――そういう物語を自分の中で作っていた。
友人が死んだ直後に、カレンお姉さまが妊娠した。
まぁ……つまり、ユイトあの野郎つまりお姉さまのあの乳をお前絶対に許さんぞ……と思いはしたけれども。
ブロッサムはそこに運命を見出した。この赤ちゃんのことは何が何でも、命を賭けてでも守り切って見せる、決意だ。
あー、うー、と声をあげて手を広げるおくるみに包まれた赤ちゃんのユカをそっとベッドに戻してブロッサムは視線をカレンに向けた。
出産という大仕事を終えて、カレン自身の希望もあり少しずつ業務に復帰をしている。さすがにドンパチには参加しないが意思決定には関わっている。
「それでブロッサム。あんたの言ってたことって……ほんとなんだ?」
「ええ、お姉さま。……あんまり気分は良くないと思いますけどぉ」
「悪阻で結構吐いたけど、まだぶり返してきたわよ。
……大丈夫。もう友達とも思えないわよ」
カレン=イスルギの中で……古い友人だったネイトの事はもう前世のように記憶から薄れて久しい。
青春を過ごした友人の肉体に、『シスターズ』のマム・カルロッサの精神が寄生していると言われ混乱も動揺もした。同時に……走火入魔による氣の暴走でネイトの顔を誤って焼き、『シスターズ』を離れながらも火傷跡の治療費を送ったのに、治療していないことを想う。
あの時、カレン=イスルギにとって生涯の友人だと信じていた相手の裏の顔、隠された本心は想像するだけで気が滅入ってくる。
それにサモンジ博士から聞かされた新しい情報。
ユカの遺伝子情報から鑑みるにカレンは『シスターズ』によって氣脈を壊されたともいう。
それも、親世代である熱血魔シゲン=イスルギを調べればわかるかもしれないが……手がかりが少なすぎた。
「そういえばブロッサム。アンジェロくんを誘拐しにきた連中って何か気になることを言ってたんだっけ」
「そうですよぉ。アンジェロくんに『フリーパス』計画の参加を求めてきたらしくて」
その内容はブロッサムがまとめた報告書にもある。
『フリーパス』計画に乗るように話しかけた男は、ネイト率いる『カーミラ』部隊に殺害された。
『マスターズ』と『シスターズ』は元々仲は悪いが、しかし今回は呉越同舟。企業を介して今回の事を訴えたが、のらりくらりとかわすばかりで正式な謝罪らしきものは受けていない。
『フリーパス』計画の実体は、誘拐犯の中でも指揮官格だった男しか知らなかったらしい。多少手荒な説得も使ったが、得られた情報は無しだ。
フリーパス計画。
計画の正体にまったく意味がない、関係のない単語を使うとは思えない。
何かを素通しさせる? なにをどこに? カレンは想像こそすれども答えに辿り着けそうにない。手がかりとなる情報のピースがあまりにも少なすぎる。
「まったくもー。ユイトの奴どこにいるのよ。
ねー、腹立つわよねユカ~」
「ん~」
父親が不在なのにも気づかず母親に抱き上げられ、顔を動かして左右を見つめる。
母親がいればそれでご機嫌なのか、きゃあきゃあ笑いだす姿にブロッサムは……釣られて笑った。
……ユイト=トールマンがここにいない理由は言えない。
様々な謎を解くきっかけ、手がかりを求めて……彼は今、北へと向かっている。
目的地は『シスターズ』の勢力圏。
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