ネットでデスゲーム小説を書いていたら、学園一の天使が古参読者でした

@kikoru

第1話 天使のスマホ

「あれ? 誰のスマホだろう。これ」


高校の帰り道に寄ったから揚げ屋での出来事だ。

ここのから揚げ屋は、中山という個人商店で、俺こと萩原朔人の通う高校の近くにあり、サクサクの衣がこれでもかとついており、食べ盛りの高校生御用達の人気店だ。


朔人が見知らぬスマホを見たのは、そんなから揚げ屋の店内の片隅に置かれたイスの上だった。

持ち主に届けようと、スマホにそのヒントが隠されていないかと手に取る。


「え? ロックかかってないじゃん」


持ち主の手から離れてまだ間もなかったのか、そのスマホは画面をつけたまま放置されていた。そして、その画面を見ると、朔人の表情が一変した。


「え???」


スマホを手に取り固まっていると、店の外から女の子の声が聞こえてきた。


「大丈夫だよ。絶対あるってー!」


「いや~、なかったら本当に困るぅ~」


そんな声とともにから揚げ屋に飛び込んできたのは、見覚えのある2人だった。


クラスメイトの右京ひよりと佐藤マナだ。

佐藤はクラスの中心にいる、いわゆる声がデカイ系女子。明るい髪色が肩にかかるくらいのボブスタイルで、目鼻立ちはハッキリとしており、遠目で見ても顔から自己主張の強さがにじみ出ている。ちなみに顔だけでなく胸も自己主張が激しいタイプだ。

いずれにせよ、朔人がもっとも苦手とするタイプだった。


一方の右京ひよりは、道を歩いていると、通り過ぎた人が思わず二度見するような美貌の持ち主で、原宿を歩いていたら、何人ものスカウトに声をかけられたという伝説の持ち主だ。


もちろん、原宿でスカウトされたなんてことを右京本人が言っていたわけではない。右京がスカウトされた時に、一緒にいた自己主張の塊で、人間拡声器でもある佐藤が、校内に広めたようだ。


その噂が広まり、学校中の男子が、

我が2年7組に殺到し、右京が教室の外から無遠慮にぶつけられる視線に耐えきれなくなり、赤面したままうつむいてしまうなんてこともあった。結局、その時は人間拡声器が男たちの人だかりに、一人で突っ込んでいき解散させた。


大勢の盛った男たちを前に堂々と振る舞う姿にクラスの女子から、拍手喝采が浴びれせられ、

拡声器は胸を張ってドヤっていた。


まあ、お前が騒動の原因を作ったんだけどなと、クラスの何人かは思っていただろう。


何はともあれ、正反対の性格をしている2人だが、なぜかいつも一緒にいる。

小さい頃からの幼馴染ってやつだろうか。


その不思議な組み合わせの2人が唐揚げ屋『中山』に入ってきた。


「あっ、萩原だ!」


佐藤がこちらの存在に気が付き、不必要に大きな声で名前を呼んでくる。

ただ、クラスメイトといっても、話したことなど3分もない。

目を合わせることもできないまま、軽く会釈だけ返した。


「あっ、それひよりのスマホ!」


佐藤がおれの手元を指し、さらにバカでかい声をあげる。


「あー、あったー!!よかった!!」


ひよりも安堵の声をもらす。


どうやら、俺が拾ったスマホは右京ひよりのものだったようだ。

それがわかると同時に、佐藤は眉間にしわを寄せ、まるで不審者を見るような視線を向けられる。


「なんで、あんたが持ってんのよ?」


「いや、ここに落ちてたから誰のかなと思って」


「スマホの中をのぞいたりしてないでしょうね?」


「いや、みてねーし」


この場面で、チラっとでも中を見たなんて言えるわけもない。


「マナ、そんなこと言わなくても…。萩原君が拾ってくれたんだね。ありがとう」


ひよりにスマホを渡すと、丁寧にお辞儀をしてくれた。

佐藤は、こちらを盗撮犯でも見るような目を向けてきたが……。


ひよりに携帯を渡すと、2人は足早に唐揚げ屋から出て行った。


店内に1人になった俺は、出来立ての唐揚げを受け取ると、唐揚げも食べずに状況を整理しようと脳みそをフル回転させた。


(えー、あのスマホ、ひよりんの? ってことは、、、)


そう、俺がそのスマホを見て固まっていたのは、

彼女のスマホの画面に表示されていたのが、

俺が密かにネットに投稿している小説の画面だったのだ。


あんな可愛くて、誰にでも優しい子が俺の小説を見ているなんて。

彼女に自分が書いてることを打ち明ければ、


(すごーい!私、あの作品大好きなんだ!)


(萩原くんのこと尊敬する!)


その尊敬の気持ちが、いつしか好きという気持ちに、、、


(いや、それはない)


即座に頭の中に浮かんだ甘い妄想を打ち消す。別に俺が悲観論者なわけではない。書いている小説の内容が問題なのだ。


小説の内容が、骨太のファンタジーや、本格ミステリーであれば、3秒待たずにひよりんに打ち明けただろう。

しかし、そんなもの俺に描けるわけもない。


俺が書いているのは、


『陰キャだけど、デスゲームが始まったのでムカつくクラスメイトたちにざまぁします』という絶対クラスメイトには知られたくないものだった。


こんなのがバレたらただでさえないクラスでの居場所が確実になくなる。犯罪者予備軍のレッテルを貼られることは間違いないだろう。


「ってか、なんでデスゲームなんて読んでんだろ」


そんな疑問を抱きつつ、俺はようやく唐揚げにかじりついた。カリカリだったはずの唐揚げは、しなしなになっていた。

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