第70話 皇帝の宝冠を、抱くもの。

瑠璃光は、術を使う訳でもなく、兵を従え、黒馬に跨り、国境を越え、アルタイ国の王、シンに会うべく進んでいた。近隣には、貧しい国が多く、数多の民が流入していた冥国。代々の皇帝は、漢薬に興味があり、東洋の国々に使いを出し、多くの漢薬を集め、医療や呪いの類を研究していた。その中で、瑠璃光の母親と出会ったとも聞いていた。まだ、皇子だった頃、陽の元の国にしかない漢薬を追って、渡った時にも、同行したと聞いていた。その全てを集めた漢薬書は、星暦寮が管理していたが、ある日、忽然と、消えていた。内部の官僚が持ち去ったと思われたが、その頃の幼い瑠璃光には、どうする事もできず、母親のようにしたっていた薫衣の殺害の濡れ衣を着せられてしまった。

「なぁ・・瑠璃光」

その時に関わったと思われる聚周が傍にいた。

「こうして、一緒に肩を並べて馬を走らせる事ができるなんて、夢のようだ」

聚周は、目を細めた。彼は、本当に瑠璃光を心底、すいており、側にいられるなら、どんな手を使ってでも、側に居たいと思っていた。成徳のただならぬ野望に、不信感はあったが、瑠璃光を自分の側に置く事ができればと、承諾していた。もっと、早く、瑠璃光が自分を必要としてくれていれば、遠回りしなくて済んだのに。聚周は、隣に並ぶ瑠璃光の横顔を見上げた。無骨な彼とは、違い繊細な瑠璃光の横側は、陽の光に、艶やかな黒髪が、反射して息を呑むほど、美しかった。

「何を見ている?」

「嫌・・・あの」

真っ直ぐな目で見つめ返され、聚周は、慌てて、顔を背けた。

「もう少し、早く、こうできれば良かったと思って」

瑠璃光は、首を振った。

「寒宮で、冷遇されていた私に、誰も、話しかける者など、いなかっただろう」

幼い日に、連れてこられた皇宮で、たまたま、目が合った幼い子供を大人達が、

「見ては、ならぬ」

遠ざけていた。あれは、幼い日の瑠璃光だったのか。

「あぁ・・・そうだったな」

失踪した母親の事で、瑠璃光は、1人で、寒宮にいた。夜中には、人ではない物が、足繁く、寒宮に通っているとの噂もあり、同じ年代の子供達は、近寄らせてもらえなかった。どんな思いで、幼少期を過ごしたのか。

「お前の事は、遠くから見ていた」

「え?」

あの日、遠くから、舞を舞う、瑠璃光を目にしたのが、最初ではなかった。瑠璃光が、自分を最初に見つけてくれていた。

「よく走り回る。元気な子だったな。羨ましかった」

聚周を見つめ、笑うと白い歯がこぼれた。

「もう、随分と、昔の事だ。お互い、時間が流れてしまった」

なんて・・・。俺は、遠回りをしてしまったのだろう。聚周は、深く後悔した。

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