第64話 翼を抱く者
紫鳳は、瑠璃光が陽の元の国から連れ帰った式神。その元の姿は、捨てられていた赤子で、明日の命も計り知れなかった。捨てられていた神社にあった十二神将の精を受け、瑠璃光に似せて作り上げれた。言わば、瑠璃光の分身でもある。瑠璃光の香術で、入れ替わり龍神の剣で、闘ってきた。入れ替わる時に、常に瑠璃光の心の中を覗く事がある。確かに、皇帝の座に着くことは、望んでおらず、いつ、心の中を覗いてみても、遙かな空と草原が広がるだけだった。
「旅に出よう」
2人だけの時に、月を見上げながら、瑠璃光が言った。
「どこへ?」
「気の向くまま」
目的もなく、あちこち旅をして、気に入ったらそこで、畑を耕して住む。それが、瑠璃光の願う生活だった。雨の日は、書を読む。時折、村人達に薬草を分けてあげたり、病人を見る。素朴な生き方を望んでいた。
「その前に・・。片付けておきたい事がある」
それが、風蘭の事だったのか。
「その為に、手伝ってほしい」
紫鳳には、わかっていた。どうして、瑠璃光に似せて作られていたのか。
「いずれ時が来たら、わかる」
水鏡に映った2人の顔を見つめ、瑠璃光は言った。
「母がどこに行ったのか、私は知らない。だけど、自分の行きたい所に行ったら、母に逢えそうな気がするんだ」
瑠璃光の声は、頼りなく寂しそうだった。他人が羨む物を持っていても、瑠璃光が1番、欲していたのは、家族の絆かもしれない。いつしか、母親の親族達と張り合える力を手にしても、家族の絆を持つ事は、できなかった。普通の人が、簡単に手に入る事が、瑠璃光には、ない。勿論、捨てられていた自分も。紫鳳は、空高く舞い上がり、アルタイ国の本陣を目指していた。翼を持つ者同士、情報を交換し、国境近くの草原に、向かっていく。下界から、空を見上げれば大きな鳥が待っているかのように、見えるだろう。薄い紫と青のグラデーションを身に纏った大きな鳥が、アルタイ国の本陣の上を回旋していく。
「やはり、現れた様です」
唐華は、袋から、いくつかの小石を放り投げ、戦況を占う。床に散らばった小石の面々は、瑠璃光の行動を表し、翼を持つ式神の行動を示唆している。
「紫鳳と言ったか?」
シンは、唐華に問う。
「陽の元の国に渡り、色々集めてきた様です。冥国で集める事は出来なかったのでしょう」
「それは、お前のせいか?」
「その通りで、ございます」
「陽の元の国か。興味が湧くな」
「まずは、冥国を手に入れてから、目を向けてみましょう」
「ふむ」
唐華は、シンの後ろにある弓矢を手にとる。
「それでは、まず、あの大きな鳥を打ちましょうか?」
「瑠璃光に似ているという顔を見てみるのも、いいだろう」
シンは、弓矢を取ると、天蓋の外へと駆け出して行った。
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