第4話 瑠璃香、荒れた神社で紫鳳を見つける。

時は、遡ること十数年。思う事があり、東の国に渡った瑠璃香は、来てすぐ嵐にあった。海上の小さな島国の間を制御の効かなくなった小舟が荒波に揉まれていった。瑠璃香1人、術を使えば、陸に渡る事は訳なかったが、何となくそれは、行たくなかった。大粒の雨粒と、狂ったように吹き荒ぶ風に揉まれ、舟の行き先に身を任せていた。何となく、これから先に、大事な出会いがあると、確信していた。七日七夜嵐は、荒れ狂い漸く、小さな浜に、瑠璃香は流れ着いた。何人かの旅人と、夜露を避けて見つけ出したのは、岬の先にある荒れた神社であった。そこで、目にしたのは、神社の境内に置かれた汚い布に包まれた小さな赤子の姿だった。

「これは、なんとも」

瑠璃香は、言葉を失った。赤黒い小さな肉の塊は、人の形は、していたが、何時間、否、何日、そこにあったのか?もはや、息はしていなかった。小さく握りしめられ拳は、冷たく、硬くピクリとも動かない。

「ここに来たのが、この為だとしたら?」

瑠璃香は、しばらく考えた。同じ船に乗ってきた他の者は、自分の事に精一杯で、誰も、瑠璃光の事を気に留めない。

「まだ、間に合うのなら」

瑠璃光の着物の袖から、香のいい粉が、散っていった。白い光が、香と混じり合う。

「黄泉路を急ぐには、まだ、早すぎる。戻るが良い。戻りて、我に使え」

瑠璃光は、袖の中で、印を結び、赤子の額に手を当てた。

「戻りて、我に使え」

細い光が赤子の額に消えていった。途端に、赤子が薄く目を開けた。感情のない黒い瞳がそこにあった。

「ふむ。そおいえば、なんの、力を与えようか」

朽ち果てた神社の奥からは、十二神将の姿絵が遠く見えていた。

「ちょうど良いのを、持ち合わせている」

瑠璃光は、思いついていた。手に余る十二神将達の力を少しずつ、赤子に与えれば、他の鬼神達の取り扱いに悩まなくて済むと。

「そうしようか、あいつら最近、言うこと、聞かないしな」

瑠璃香は、十二神将達の力を少しずつ分け与え、最近、制御が効かなくなっていた神将を押さえつけようと考えた。

「お前の名前は、紫鳳としよう。よく使えるのだ」

紫鳳と呼ばれた赤子は、目を見開き瑠璃光を見上げていた。その瞳には、瑠璃香の姿が、はっきりと映っている。

「さて、私は、子育ては、苦手なのだ。世話をする者が必要になる」

神社の鳥居の前には、長年の風雨で、朽ち果てた狛犬が、2匹転がっていた。

「丁度良い。」

瑠璃香は、硬い岩で、掘られたであろう狛犬の置物を片手で、軽そうに持ち上げた。

「しっかりと世話するのだぞ」

瑠璃光が、頭を撫でると、硬い岩の狛犬は、白く小さな獅子に変わっていた。

「阿と吽。一人前になるまで、しっかり育て上げよ」

小さな獅子達は、瑠璃光から渡された赤黒い肉の塊に、顔を見合わせながら、戸惑っていた。


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