隔世遺伝

阿紋

 商店街に置かれたベンチ。

 僕は何気なくそのベンチにすわって空を眺めている。

「さぼってるね」

 あんみつ屋の幸子が僕を見つけてそう言った。

「おまえだって」

「あたしはいま休憩時間だからいいの」

 そう言ってフワフワとした足どりで僕から離れていく。あいつとは幼なじみだけれど普通の幼なじみとは少しばかり事情が違う。

 これが運命ってやつなのか。そう思っているのは僕の祖父さんとあいつの祖母さんだけだ。あいつはどう思っているのだろう。

 何となく聞く気がしないのだ。あんみつ屋は祖母さんと二人でやっているからじわじわと自然に刷り込まれているのかもしれない。

「ヒカルのおじいちゃんに呼び止められちゃった」

「何て言われたの」

「きれいになったななんて」

「今さら何を言うんだろうね」

 そう言って幸子がにっこりと笑う。

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