魔王と女神と妖精ばかり構ってたら、いつの間にか聖女と天使と女王が病み落ちしてた
Zoisite
プロローグ
中学校を卒業し、高校一年生になって早数ヶ月。
後もう少しで夏休みに入る、七月下旬。
そんな時期の、とある日の放課後。
ごく普通の高校生である俺こと、
同じ高校の、同じ生徒に。
学校の旧校舎。
ひと気のない三階の美術準備室で起きた出来事だった。
既に加害生徒は逃亡し、準備室に残っているのは俺だけ。
決死の覚悟で反撃し、相手から奪った包丁は自身の血で赤黒く濡れていた。そこに映った自分の姿を見る。
刺された腹部の出血は酷く、傷口を抑えた手も血みどろだ。
意識はまだはっきりしているが、眩暈と耳鳴りが酷い。
相手が新たな凶器を持って戻ってきた場合、今度こそ死にそう。
準備室は内側から鍵を掛けているが、チャージすればあっさりと破壊できそうな扉だ。信用できない。
「最悪……」
大きなため息を吐き出す。
遠くから、サイレンが聞こえた。
それが警察のものなのか、救急車のものなのか、俺には判断がつかないけれど、どうでもいいことだ。
どちらが先に辿り着いても、恐らく俺は助かる。多分。
――いや、助かるか? 不安になるな、この出血量。
というか、準備室の鍵開けないと警察とか救命士の人、入れないか。
場所は伝えてあるから、問題は無いだろうけど。
万が一犯人が待ち構えていたら完全にホラーだから、このまま密室で待たせてもらおう。
着いたらチャージして開けてくれるだろう。俺が開けられる状態なら開けるけど。
静かにしているのに、息が乱れる。
肩を揺らして荒い息をつきながら、虚空を眺めた。
俺は、どうしてこうなったのかを考えることにする。
考えるというより、どういう過程で現在に繋がったのかを思い返すと言った方が正しいか。
痛みに耐えてる間、退屈で暇だから、そうすることにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺が進学した私立
指定制服はお洒落で男女共に人気があり、私服登校も可能で、髪色もピアスも自由。基本的に公序良俗さえ守っていれば大体の恰好は許される。
ギリギリ進学校と言えなくもない偏差値に加えて、高大一貫教育校であり、素行と成績に問題なければエスカレーター式に大学に進学可能。
この高校の欠点は部活動にまったく力を入れていない所ぐらいだろう。予算は潤沢にあるが、運動部が全体的に弱い。たまに奇跡の世代が全国に行くくらいだ。
学校行事によく金を使い、文化祭や修学旅行はテレビで取り上げらたこともあるくらい派手。
大きな学生寮も運営されており、大学進学を見越した他県から来る受験生も倍率増加の一因となっている。
加えて去年は、とある噂が県内の中学校で共有されたせいで例年よりも受験生が多く、より合格難易度が上昇した状態で俺は試験を受ける羽目になった。
手元のスマートフォンから視線を外し、賑やかな教室を見渡す。
一目見るだけで違う世界の住人だと分かる美しい少女達が、俺の目に留まった。
彼女達は際立った美貌で男女を問わず人を集め、その効果は他クラス、果ては二年、三年の先輩方にまで及ぶほど。
この学校には、大層な二つ名を持つ少女達が
俺が所属する1-Aクラスには、その中の四人が在籍していた。
一年生は五クラスもあるのに四人を一クラスに集めるなんて、明らかにオーバーパワーでバランス崩壊も良い所だ。
もっと分散させるべきであったろうに。
今年、この学校の倍率が跳ね上がったのは彼女達が原因との噂があった。
なるほど、確かに。思わず高校まで追いかけたくなるほどの美しい娘達である事は間違いない。
同じクラスの称号持ち美少女を一人ずつ見ていく。
【聖女】
本人の口から聞いた訳ではない噂話だが、アイルランドだかフィンランドだかの血が混じったクォーターらしい。実際、顔の造りは純日本人のものではない。
ダークブラウンの髪をストレートに背中まで流した、清楚な美人。
身長はそこそこだが、同年代よりも発育がずば抜けて良い。胸とかお尻とか。
オタクや陽キャのクソどうでもいい趣味の話でも微笑みを絶やさずに聞いてあげているのを見た。聴き上手。八方美人を超えた三十六方美人。
家は教会を運営していて、彼女のシスター服姿が本人の許可なく出回っている。何となく胸糞悪い。
【天使】シャルロット・グランデ。
ヨーロッパ諸国の血と日本人のミックス。
太陽のように煌めく黄金色の髪をツーサイドアップにした美少女。澄んだ青い瞳。強気そうなイメージを与えるきりっとした眉。優美な鼻筋。桜色の小さな唇。
スタイルが良く、スレンダーな体形で、神が直接手を加えたとしか思えない曲線美を描く。
他の二人と比べると周囲にいる人間の比率は圧倒的に男が多い。天使と言うよりお姫様では?
モデルをやっていて、たまに雑誌の表紙になっているのを見る。
【女王】ヴィクトリア・シグーリナ。
彼女についてはよく知っている。中学が同じだったから。
ロシア人と日本人のハーフで、第三次世界大戦開戦前にソビエト連邦から逃れたロシア帝国の末裔。
宇宙のように真っ黒な髪をミディアムボブに整えて、よく巻いている。シャルロッテと同じ青い瞳は、漆黒の髪と相まって光っているように見える。
日本人から見れば病的に見える白い肌と黒髪の対比は美しく、彼女の魅力の一つだ。
三人の中では一番長身で、中学三年の時点で身長167cmはあった。クラスの女子の中では二番目に高い。
身長に比例して相応にバストも大きく、姿勢が良い為、良く男子の視線を釘付けにしていた。
いつも眉間に皺を寄せて険しい表情をしているが、あれが彼女の素だ。加えて、あんまり笑わない。
もう一人、このクラスには【魔王】と陰で崇められる者がいるが、今日は学校に来ていなかった。
以上が、同じクラスの二つ名を付けられた少女達。
皆が彼女達の姿を目に焼け付けようと、この1-Aにやって来る。
良い意味でも悪い意味でも彼女達は浮いている。
同じ制服を着て、現状は我々と同じ立場の人間でしかないと言うのに、素人が作った合成写真のような歪な存在感を示しているからだ。
あまりに常識離れした彼女達の存在は間違いなく人を狂わせると断言できる。
ヴィクトリアがそうだった。中学時代、多くの生徒に影響を与え、悪意も善意も関係なく、そこにいるだけで、人間関係を狂わせる。
白人コンプレックスを抱える日本人達にとって、彼女達はあまりにも存在が眩すぎるのだ。
入学して間もないと言うのにあの人気ぶりを見るに、高校でも恐らく多くの人間がぶっ壊れるのは避けられないだろう。
どんな風に壊れていくのか、正直楽しみ。
俺はただ遠巻きに、対岸で、彼女達の軌跡を眺めることにする。
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