敝衣の王②

宿屋は誇らしげに腕を広げてそう言った。

「まず、私がこの世界に来る前の話しになりますかね。私は宿の亭主をしていまして、それなりに儲かっていましてね。

 今の名前はそこから、本名はテナルディエ、もう名乗る事はないと思います。時が経ち年をとり宿屋は廃れ、家族を養えないほどになっていきました。私は家族の為、金を稼ぐ為にあらゆる事をしました。そんなある日、仕事が大成功して大金を持って家に帰ろうとした所、あれはたぶん強盗あるいは、私に恨みを持った人間ですかね。頭部を後ろから強く殴られまして、死にかけている所に扉が現れました。そのままのたれ死ぬか、扉をくぐるかを迫られているようでしたよ。

 当然生きる為に這いつくばりながら扉に入りました。それがこの世界に来た理由です。そして扉に入る前に家族の事より

 金と商売の事を考え過ぎたせいでしょうか、今のピース、万象質店キャピタリズムになった訳です。あの聞いてます?」


 話が長過ぎてうたた寝してしまった。後半全然聞いてなかった。


「もちろん聞いてます、感動しました。続きをお願いします」


 感動の涙を流すふりをして顔を覆った手の中で大あくびをした。疑わしい顔をしていたが泣きの演技でなんとか騙せたみたいだ。



「では、改めて万象質店は、売り手の所有物をどんな物でも買取れその場にあった通貨に変換できる能力です。売られた物の存在は一旦私の記憶に変換されます。もちろん通貨で私の持っている物を買い取る事もできます。ただ、私も記憶から物を自由に引き出せる訳ではなく、相応の通貨が必要になります。今、すごい便利と思いましたね?デメリットもあるんです。記憶に保持しているすべての物の価値を合計しその半分が毎月私の所有物から精算消滅してしまいます。税みたいな物ですね、だから無闇に買取はできません。金を愛し過ぎた私への罰ですね」


 昔の自分ならこんな長い話でも、まじめにノートをとりながら聞いていたが、ダルトと長くいたせいか要点と付け入り所以外は全く頭に入ってこない。


「長い話はここまでです。ダルトと出会って時と同じ顔をしてますね。そろそろプロローグは終わりにして、これはあなたを育てた4人からの最後のサプライズです」


 宿屋は突然前にかざすとその正面に霧で出来たスクリーンのような物が飛び出した。霧が濃くなりそこに映像が照射されはじめた。よく見るとこの世界のさまざま場所が映し出されていた。なんの為の映像か尋ねようとした所で、爆発音と共に美しい花火が上がった、しかも世界中に。呆然としている民衆の前に自分の見ているスクリーンと同じ物、いや空を覆うほど巨大だ。そこにもなにかが映し出されていた。ボロ切れた布を被った人物ダルトだ。顔は布で覆っているが間違いない。


「れでぃーすえんどじぇんとるめん!歴史のスーパースター敝衣へいいの王の登場だ。なんてな世界から見ると大戦犯か、20年前の世界大戦後処刑されたはずの俺が生きてて驚いた? 歴史の教科書で見たくらいの感想かな?1番びっくりしてるのはお偉いさん達だよな!前置きはさておきここに敝衣の王復活を宣言します!!目的はBoxを全て集め世界を塗り替える、待ってろよ国際連盟。またな」


 霧が薄れていく、民衆の慌てふためく声、泣き叫ぶ声が薄っすらと聞こえはじめた時に映像が切れた。


「復活ってダルトは死んだ……」


 言った後に気付いた。宿屋がニヤついている。ダルトがもらった砂避けの布、これってまさか、周りからみたら完全に敝衣の王、世界を塗り替える?

 この人達まさか修行は俺の為じゃなく、これの為に一枚噛まされてたのか、ずっとダルトの手の中に。根掘り葉掘り宿屋にこの事を聞こうと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

 穴に落ちた?身体が包まれている感じだ。動けない。


「宿屋ぁ!!」


 必死に抵抗していたが、外からは妙な音しか聴こえない。


「特注の大型大砲。これはやくやりたくて仕方なかったんですよね。安心してくださいね。ちゃんと怪我しないように作られてますから。さぁ冒険のスタート地点はディブリーアイランズです。いってらっしゃい」


 さっきの音は導火線の音か、大砲って、なんも説明なしでどうしろっていうんだよ。と思った矢先には空気抵抗で頬がちぎれそうになりながら上空に飛んでいた。


「ちくしょー!!!」


 利用されていた屈辱を叫びにかえて吐き出した。それ以外は何もできない。泣きたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る