虚な小屋①
「お…ろ…い……ね…だ」
長く暗闇の中にいた。うっすらと声が聞こえるが目を開ける気力もない。あの戦場で生きてたのか?それとも夢か、それか天国か、はたまた地獄だったり。体が揺すられている。
「起きろ、坊主ったく」
誰かが起こそうとしてくれているのか、意識が戻ろうとするとここなの姿を思い出し、また暗闇の中に落ちる。
「先に起きた女の子が待ってるぞ」
先に起きた女の子。いやそんなはずは、確かに目の前でここなは死んだはず、でもそうすると先に起きた女の子って誰だ?もしかしたら、そうだしっかり確認した訳じゃないし、近くにBoxもあったし、アオもいた、不思議な世界だし治療法があったのかも。希望の光がさすと周りに理由が集まって来る。その理由に押し上げられるように目を覚ました。
「ここな!!」
悪夢からさめた様に体を起こすと背中が痛い。冷たい床に寝転んでいたようだ。横を見るとニヤついた白髪だらけでボロ切れを羽織ってるかと思うような服、無精髭をはやした初老の男性がいた。
「みんな!起きたぞ、賭けは俺の勝ちだな」
初老の男性がそう言うと隣の部屋であろう扉が開く。がっかりそうに入ってきた、派手なチェックの紳士服の男と声は出していないが、腹を抱えて笑っている赤いヘルメットを被り上は革ジャン下はジーンズの男が現れた。3人とも同い年ぐらいだろう。
「また負けた。ダルトは強いなぁ、約束の金」
紳士服はボロ切れ服の男に見た事のない紙幣をわたした。赤いヘルメットの男もポケットを漁るとその男に紙幣を渡した。普通なら何処なのか誰なのかを気にするが、今はここなの事で頭がいっぱいだ。
「あの、先に起きた女の子って、一緒に倒れてた女の子ですよね?ここにいるんですか?生きてるんですか?怪我は大丈夫なんですか?」
僕は初対面の人間にもかかわらず大きな声で脈絡もなく質問を繰り返してしまった。それほどに、それほどに心に余裕がない。紳士服とヘルメットは僕の話を聞いた途端気まずそうに部屋を出た。ボロ切れ服はヘラヘラしながら僕の顔を覗きこんだ。
「さっきの話、ありゃ嘘だ。助けられたのは、お前1人。あの戦場じゃそれが限界、それにあの女の子は……。そんな事より坊主のおかげで賭けに勝てたよ、起きてくれてありがとな」
ボロ切れ服の男は紙幣に何度もキスをして、その1枚を僕のポケットにねじ込んだ。嘘?頭が真っ白だ。やっぱりここなはあのまま。この男、人の命をなんだと。こみ上げてくる怒りを抑えられず、男の胸ぐらを掴んだ。
「おまえ!おまえぇ!ついていい嘘と悪い嘘があるだろ」
怒鳴り胸ぐらをつかんだまま男を揺さぶる。男は依然としてヘラヘラしている。男はしばらくすると、僕の腕を掴んで止めた。
「起きれたからよかったろ?このまま一生眠って、しかばねになるまで現実逃避するつもりだったのか?今の怒りも俺にじゃない、弱い自分に対する怒りをぶつけてるだけだろう。そんな自分に嘘ついてる奴にどうこう言われる筋合いはないね。嘘に救われ、自分に嘘つき、嘘に怒り、嘘が忙しそうだな」
心が読まれたかのように、正論を叩きつけられ、掴んでいたボロ切れから自然と手が離れた。怒りに負けていた悲しみも後から追いついて涙が溢れてでた。
「おいおい泣くなって、俺が泣かしたみたいだろ。あとおまえじゃない、俺の名前はダルトぴちぴちの20代、好きな物はお花、趣味はケーキ作り、昔は一国の王様、これからよろしくな」
ダルトはヘラヘラしながらそう言った。絶対に嘘だ。
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