外伝エピソード「玲と雄大の別れ」

「雄大くん、話したいことがあるの」


生徒会の仕事で忙しい中、雄大はわざわざ生徒会の仕事の合間に教室に来てくれた。


「うん。どうした?」


雄大は優しく私を待ってくれる。私は今から雄大を傷付ける発言をする。でもこれが私の覚悟だった。


「私にはずっと前から好きな人がいるの」


相当酷いことを雄大に言った。彼氏にそんなことを言う人が、この世界のどこにいるのだろうか。そんなことを言ったのに雄大は悲しい顔一つしない。


「奏斗でしょ」


私は深く頷いた。怒られると思った。失望されると思った。そんな私の方程式を雄大はニコッと笑って受け入れた。たぶん雄大は以前から私の気持ちに気づいていたのにも関わらず付き合ってくれていた。


「知ってたよ。やっぱりそうだよな」


その笑顔が私にとって辛かった。どうせなら怒って欲しかった。失望して欲しかった。


雄大は優しい。雄大の方が辛いはずなのに、自分で言っておいて自分が辛くなる。なんなのだろう。この気持ち。


「じゃ俺、生徒会の仕事あるから。戻るわ」


雄大と別れる一瞬、私は後悔を予測した。なんで後悔を感じようとしている自分がいるのだろう。私は雄大と別れるために呼び出した。雄大と別れること=覚悟を決めることだと思っていた。その覚悟が一瞬揺らぐ。


「待って」


私は気がつくと雄大を引き止めていた。雄大は振り返る。おそらく私は雄大のことも好きになっていた。人と付き合うことは想いを抱くことになる。人と別れることは不安に繋がる。


「私は…」


「大丈夫だよ。あいつのことだから」


「…ありがとう」


雄大はいつも繕った笑顔を見せていた。雄大は私に対して心の底から笑顔を見せたことは無い。奏斗や隼也とはしゃいでいる時の笑顔とは全然違った。私のことが嫌いになったのではないかと感じていた。


でも違った 。雄大は私のことが嫌いな訳では無い。私が雄大のことを愛していなかった。雄大はそんな私に苦しんでいたんだ。私が、雄大に奏斗を重ねて見ていることが辛かったんだ。


雄大は雄大。奏斗は奏斗。私は私。


私と奏斗の方程式。


私と雄大の方程式。


それは絶対同じ曲線を辿ることは無い。


奏斗は奏斗として。


雄大は雄大として。


「私と、」


方程式の終わりには責任を抱かなければならない。私はその言葉のために空気から酸素の力を借りる。その酸素を脳の奥に代入して、喉で方程式を解いて、その解を口の中に用意して…。


でも言うはずだった言葉を雄大が先に発した。


「玲、俺と別れてください」


言葉というものは形のないものであるし、お金もかからない。


でもどんな形のあるものよりも想いが込められ、それには責任がのしかかる。


その責任を背負ってくれる雄大の発言。その時、私は雄大を雄大として好きになった。


「ありがとう。私、方程式、解いてくる!」


「おうよ!じゃ俺生徒会の仕事に戻るから」


雄大は教室を後にした。生徒会では誰よりもふざけていて子どもっぽいが、その背中は誰よりも大人っぽく見えた。


私は覚悟を決める。


必ず奏斗に想いを伝える。

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