12話 僕の夏方程式

12話 僕の夏方程式


8月という言霊は暑さを連想させる。地球の地軸をねじ曲げて、今にも暑さから離れたいがそんな力は無い。地球の自転と公転により、今年も立派な夏休みを迎えていた。


その日、雄大と汗を流していた。


「あちぃな」


「言うなって、あぁ、益々暑くなってきたじゃねぇか。あちぃ」


僕たちは、体育祭の練習のために学校に来ていた。休憩時間にペットボトルをがぶ飲みして芝生に転がって空を見上げる。眩しすぎる陽光が身体中に突き刺さる。なんかポカポカしてきた。意識もふわふわ…


「お前たち頑張ってるか」


「先生、夏休みなのに俺たちに指導っすか」


「そうだ。お前たち、そこに寝っ転がってたら退学になるぞ」


担任が箱を置く。僕と雄大、周囲にいた他の人たちも集まってくる。


「なんすか…ってアイスじゃないっすか!」


「食え、熱中症なったら退学だからな」


生徒が群がり、アイスの取り合いが始まった。僕と雄大は担任の行動に驚いて目を合わす。


「案外、」


「いい先生なのかもな」


僕と雄大もその輪の中に入っていった。


・・・・・・・・・


僕らはアイスキャンディーにがぶりつく。炎天下の中、アイスがどんどん溶けていく。地面にポタポタ垂れないように下から舐める。


「うめぇ」


「いや、真夏に食べるアイス本当に美味いな」


「こう考えると夏も悪くは無いな」


あっという間に食べ終わり、アイスの棒を口に加える雄大。そこに一人の先輩が歩いてきた。


「ほら、雄大、練習やるぞ」


「めんどくさいっす」


雄大がそう返答する人…生徒会長は雄大を睨みつける。雄大は全く怖気ていない。むしろ笑っている。


「だいたい、先輩、応援団なのに1番踊れてないじゃないっすか」


「うるさい!生徒会の仕事が忙しかったんだよ」


「またぁまたぁ〜。この前生徒会室で暇そうに扇風機に向かって『あ〜』って声出してたの誰ですか?」


「そ、それは秘密だろ!」


先輩は雄大をつまみ上げる。そして無理やり練習場に連れていく。僕もその後を追う。


「君は確か萌衣さんの」


「あ、はい。滝本奏斗と言います」


「あーそんな名前だったな。雄大も時々話してるよ。奏斗はいいやつだって。俺の目にもわかる。奏斗くんは雄大と違って、いい人だ」


「俺もいい人っすから。ってか、離してください」


そんなこんなで午後の応援合戦練習が始まった。生徒会長はダンスが出来ずにみんなの前で女子に怒られていた。雄大はその様子をニンマリと満足そうに見ていた。


・・・・・・


「先輩、お疲れ様っす。怒られる姿、最高にカッコよかったっす」


「そうかい」


グダーっと今にも倒れそうな先輩。もうツッコミの気力もないらしい。


「今日一緒に帰ってもいいか?」


「いいっすよ。奏斗もいいか?」


「もちろん」


嬉しそうな顔をする先輩の肩を、ある人が叩いた。笑顔で振り返る先輩。その顔が笑顔のまま固まった。


「後輩と一緒に帰れるわけないでしょ。あなたは居残り練習」


そして女の先輩(生徒会副会長の先輩)は優しい笑顔でこちらを見た。優しさの中に見える怖さ。雄大と僕は震え上がった。


「そうだ、君たちも一緒に練習してく?」


「いやいやいや、いいです。このあと用事あるので、さようなら先輩。頑張って先輩」


僕たちはその場から猛スピードで逃げた。振り返って先輩を見ると今にも泣きそうな顔で僕たちに何かを訴えかけていた。


「大丈夫かな、先輩」


「大丈夫だよ。あれでも生徒会長だからな」


それ大丈夫なのかと心配するが、おそらく大丈夫ではないだろう。


「奏斗、今日は一緒に帰るか?まだ帰るには早いしどこか寄ってく?」


雄大が誘ってきた。


「いいよ、一緒に帰るか。少しお腹すいたし、かき氷食べたいな」


「いいね、俺はイチゴかき氷だな」


「僕も。練乳かけよう」


「それいいねぇ」


普段は電車通学だが、夏休みは自転車通学に切り替えている。その代わり、親から1ヶ月分の定期代を貰えることになっている。


・・・・・


自転車小屋に行くと端の方で隼也がしゃがんでスマホをいじっていた。声をかけようとすると、隼也は急いで俺たちの頭を押した。


「隼也どうしたんだよ」


「しーっ。うるさい。静かにしろ。あれを見ろ」


隼也が震えて指さす方を見ると校門の前に文香が腕を組んで立っていた。


「俺を待っているらしいんだ。怖いよ、俺を助けろ」


隼也が頭を抱えて震えている。愛されるっていい事だと思う。好まれるって凄いことだと思う。隼也は僕とは違う恋立方程式を歩んでいた。


「隼也はさ、文香のどこが嫌なの?」


「別に嫌じゃないんだよ。ただなんか怖い、追いかけてくるのが怖い!」


「羨ましいことだと思うけどな」


「僕もそう思う。ということで」


僕と雄大は大きな声で文香を呼ぶ。文香はすごい勢いで自転車をこいでこちらに来る。大きな鉄球が近づいてくるようで、僕らも恐怖を感じた。


「しゅんやくーん♪」


「お前ら許さないからなぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁ」


隼也はすごい速さで逃げた。まるでライオンに追いかけているようで、その光景を見て笑った。


・・・・・・・・・・・


「はぁ、プッチョに自転車で轢かれるかと思ったわ」


「悪かったって。ほら、かき氷頼めよ。俺と奏斗の奢りだ」


マジで!と元気になる隼也。隼也は周りをキョロキョロ見渡す。僕も誰かの視線が気になるがおそらく気のせいだと信じたい。


隼也はいちばん高い果肉入りマンゴーかき氷を頼んだ。僕と雄大は練乳をかけるのを我慢した。


「隼也さ、プッチョと付き合えばいいんじゃないの?」


「いや、なんか、それは、無い。少しは俺の立場になって考えろ。付き合えるか?あんな巨体」


「痩せれば可愛んだろうけどなぁ」


店員は二つのいちごかき氷と、黄金に輝きを放つマンゴーかき氷を持ってきた。まじで美味しそうだ。


「それよりもさ、お前たちはどうなの?」


それは…。

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