第5話 単眼の白き異形
そして場所は移り、ここはギルドマスターシャルティアの部屋。 そこでは大きなテーブルを挟んでナギサとシャルティアが向かい合って座っていた。
ちなみにナギサがこちらに戻ってきた時、時間は六時間程しか経っていなかった。
「という訳で、こうなっちゃいました」
ナギサは転移してから戻ってくるまでの事をシャルティアに説明した。
「あらあら。それは大変だったのね。びっくりしちゃうわねぇ……」
「って何知らないフリしてるんですかぁ〜! テイエス様から聞きましたよ!? シャルティア様も私と同じだったんですよね! そしてこうなる事もわかってたんですよね!? だってほらそこ! なんでそんなに女の子用の服とかいっぱい置いてあるんですか!? しかもご丁寧に【ナギサちゃんへ】って書いてまで!」
ナギサの視線の先にあるテーブルの上。そこには大量の可愛らしい服や下着にアクセサリーなど、様々な物が所狭しと並べ置かれていた。
「ふふ、バレちゃった」
「バレちゃった、じゃないですよぅ……」
「あ、でもね? 女の子になるのは確定では無かったのよ? 今まで殆どの人が失敗してるもの。ワタシ以外だと二人くらいかしら。でもね? きっとアナタなら試練を超えて帰ってくると思ってたの。これはそのお祝いよ? それにその姿なら元のパーティーに戻れるじゃない」
「ふぐぅ……そ、それはそうですけどぉ……」
ナギサは認めたくないけど認めざるを得ない事実に何も言えなくなってしまう。
「それにしても本当に可愛くなったわね。言葉遣いや仕草も完全に女の子だわ。これならパーティーに入ってもすぐに即戦力ね」
シャルティアはナギサの全身をじっくりと見てそう言う。
「だってテイエス様がぁ……って完全に女の子なら即戦力ってなにがですか? あと、そんなにジロジロ見られると流石にちょっと恥ずかしいです……。この鎧、肌出過ぎなんですもん」
「いいえ見るわ。だって可愛いもの。それはそうと、聞いてないの? あの試練を超えたワタシ達は、それぞれの【女子力】で力や能力が上がるのよ? それは人によって違うのだけれど、ちなみに私は【仕事が出来るポンコツお姉さん】ね」
いきなり聞こえた頭の悪そうな言葉にナギサは固まってしまう。
「な、なんですかそれは……」
「多分だけど、男だった時に好きなタイプが反映されるんじゃないかしら? だから多分ナギサちゃんは、【とにかく可愛い女の子】って感じかしらね?」
「そ、それは間違って……ない……かも?」
「でしょう? けどまだわからないから簡単に判断はつけない方がいいと思うわ」
「ですね。とりあえず頭の隅っこには置いておきます」
「そうね。それがいいわ。それじゃあそろそろ帰らないと親御さんが心配するわよ? あ、そうそう! このプレゼントは全部アナタへのお祝いで用意したからちゃんと持って行ってね。はいコレ、容量は少し小さいけどアイテムバックも一緒にどうぞ。コレがないとこの量は持って帰れないものね」
「えっ、いいんですか!? アイテムバックって凄く高いのに。それに全然小さくないじゃないですか……」
「いいのいいの。お祝いなんだから。それにワタシも仲間が増えて嬉しいのよ?」
「仲間……ですか。そうですね。私も同じ境遇の人がいて心強いですし……。ありがとうございます。シャルティア様」
ナギサはアイテムバックを受け取ると貰った物をその中にどんどん入れていく。
そして全てを入れ終わったところで、シャルティアが少し厚手のマントを手渡してきた。
「シャルティア様、これは?」
「ほら、さすがにその格好で今の時間歩くのはちょっと……ね? 今のナギサちゃんとっても可愛いから、肌を見せて歩いてると危ないわよ?」
「ひぅっ!」
ナギサはいやらしい目付きで近づいてくる男達を想像して寒気がした。確かに自分でもなかなか魅力的な容姿をしていると思っていたため、余計に怖くなったのだ。
「ね?」
「は、はいぃ……」
「表はまだ人がいると思うから、裏口から出ていくといいわ。そっちの方が人目につかないから。じゃ、お母さんによろしくね」
「ありがとうございます。それではお邪魔しまし…………あぁぁぁぁっ!」
「どうしたの?」
「私、お、お母さんになんて言えばいいんですかっ!? 息子が娘になっちゃったのに!」
「あ…………な、なんて言えばいいのかしら……」
◇◇◇
「まったくもうっ! シャルティア様ってば『多分大丈夫』『きっとなんとかなるわ』しか言わないんだから!」
家に向かって城壁脇の薄暗い人通りの無い道を歩きながらナギサはそう愚痴をこぼす。怒り方までしっかり女の子だが、胸の内ではこんなことを考えていた。
(くそっ! 母さんになんて説明すればいいんだよ。一人息子の俺が女になったなんて聞いたら卒倒しそうだぞ。俺にまだ兄弟がいればまだしも……)
あれだけテイエスに女の道を叩き込まれても、心の声はしっかり男である。彼女(彼)にとってそこだけはどうしても譲れないところ。まぁ、時間の問題なのだが……。
(しかも女子力ってなんだよ。そんな制限があるなら口調とか変えれないじゃんか。っても、既に身に染み付いちゃってるから今更どうこうしようとは思わないけどさ……)
「…………きゃうっ!!」
(ん? なんだ? 今の声)
声には出さずにグチグチと文句を言っていると、更に奥の道から小さな悲鳴がナギサの耳に入った。妙に気になり、ゆっくりと近づいて壁の物陰から声がした方を覗くと、そこでは見たことも無い白く輝く一つ目の異形の化け物が腕……と言っていいのかもわからない何かで一人の少女の頭を掴み、吊るしあげている。
(な、なんだよあれ。あんなの見たことないぞ……あれ? ちょっと待て。もしかしてあの捕まってる女の子って──)
「ミリア? なんでミリアが捕まってるの? あの子なら魔法でなんとか出来るハズなのに……っ!」
ナギサはそこで視界の端に映る杖を見つけた。炎、水、土、風の魔玉が埋め込まれたミリアにしか使えない杖。これを使えるからこそミリアは強いのであって、それを持たない今、彼女の身体能力は普通の冒険者と殆ど変わりが無いことを、元パーティーであるナギサは知っていた。
「そっか。魔法を使う前に……。待っててね。今、私がアナタを助けるから」
ナギサはそう言って体を隠していたマントを外し、地面に落とした。
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