第一話 こんにちわ異世界
眼下に見えるその風景は、明らかにエターナルワールドオンラインの世界。
たまたま形と配置が似ているだけだとか、ゲームのモデルになった建物だとか、色々と否定するための言い訳を探してみるが、やがてそれは、まさに言い訳でしかない事を確信する事になる。
今、自分が身につけているものが、ゲームの中で自分のキャラが着ていた、鍛治用装備と瓜二つだったのだ。
「そんな馬鹿な……悪い夢だと思いたい所だけど……」
風が私の頬を撫で、太陽の光が肌を刺す。
手足を動かす感覚や、衣服が擦れる音や感触。
よもや、こんなリアルな夢があるわけがない。
「いや、でも……」
それでも私はこの状況を全力で否定しようとしたが、眼下に広がる城塞都市が目に入り、思わず続きの言葉を飲み込まざるを得なかった。
これじゃぁまるで、漫画やラノベなんかで良くある、『異世界転移』とか『異世界召喚』みたいな展開じゃない。
「まさか本当にそんな事が起こり得るの??いやぁ……でもさすがに……」
それでも、やっぱり納得は出来ない。
というか、納得してはいけない気がする。
しかし、この状況を冷静に確認すればするほど、否定できる要素がない事を思い知る。
「それじゃ、足元のこれって……」
実は、私の足元には円形に広がる幾何学模様とルーン文字の様な文字の羅列が、薄っすらと光る線で描かれていた。
それは、ゲームでよく見た、召喚魔法を使った時に現れる、召喚の魔法陣その物だった。
「て事は……この世界に、召喚された?」
いやいやまさか。
そんな馬鹿な。
アニメやラノベじゃあるまいし。
うん、そうだよ。こんなの普通あり得ない。
たぶん何かのドッキリだ。
一体どんなドッキリなのかは不明だが、
私はまだ諦めない。
こんな事あってたまるかっての!
「もしも本当にラノベみたいな展開だっていうんなら、こんな事も出来るはずだよね!」
"ステータスオープン!!"
名前:エト
職業:鍛冶師 Lv99
HP:683/683
MP:218/218
STR:122
VIT:76
DEX:392
INT:35
装備
星砕きの槌++
技巧者の外套
シーラ繊維の装飾服
朧月の腕輪+
無尽蔵のポーチ改++
極楽鳥の編上靴
スキル
鍛冶Lv10 修理Lv10 鑑定LV10 採掘LV10 採石LV10 精錬LV10 採取LV10 解体LV10 伐採LV10 木工LV10 石工LV10 硝子工LV10 裁縫LV10 調合LV10 調薬LV10 錬金LV10 彫金LV10 細工LV10 砥工LV10 研磨工LV10 大工LV10 建設LV10 建築LV10 料理LV10 製作LV10 付与LV10 家具工LV10
ex瞬間生産 ex制限解除 ex異次元工房 ex武器の達人 exマテリアルソウル exマテリアルサーチ ex黄金の炎 exゴットハンド
「出るんかい!」
自分でやっておきながら思わず突っ込んでしまった。
どうしよ。ほんとに出ちゃったよ。まじですか。
しかもこのステータス、名前からスキルまで、全てゲーム内での私のキャラ、エトそのまんまだよね?
装備品も神剣を作っていた時の装備と同じだし。
どうやら私は、『エト』として、このゲームの世界にやって来てしまったという事なのか。
要するに、今の私は詠村月穂ではなく、鍛治師エトだと言う事になる。
「そんな無茶苦茶な・・・」
私は頭を抱え、グッタリと頭を垂れる。
足元には薄く光る魔法陣。
その奥には私のよく知る城塞都市。
そもそも、地上から遥か高い場所にある魔法陣の上に立ってるって時点から、既におかしい。
って言うか、これからどうすれば?
別に高い所は苦手じゃないけど、こんな身動きの取れない上空に1人で何時間も居たくないんだけど……。
取り敢えず、地上に降りたいんだけど、どうすれば?
まさか飛び降りろって?
でも、飛び降りたら多分死んじゃうよね?
だって、鍛治師は飛べないし。
いや、鍛治師じゃなくても飛べないけど。
だって人間は飛べないし。
そもそも今の私は人間でいいのかな?
次第に情緒不安定になり始める私。
がんばれ私。
と、そんな事を考えていたその時。
まるでそんな私の不安を煽るかのように、足元に描かれていた魔法陣が突然、激しく点滅し始めた。
「ちょ、今度は何!?」
流石に危険を感じる私。
この展開、もはや嫌な予感しかしない。
「まさか、魔法陣が消えてこのまま落ちるとかないよね?!いや、別にフラグじゃないよ!?真面目だよ!?
ヤバイヤバイヤバイ!流石にこの高さから落ちたらゲームキャラでも死んじゃうよ!?」
次第に魔法陣の点滅は激しくなり、そして、フッと消滅した。
「え?」
それと同時に足元の抵抗も消え、私はそのまま垂直に落下し始めた。
「イヤァァァァーーーー!!!」
私は叫びながら、すごい速度で落下していく。
落ちる速度が速いため、髪の毛や衣服が風圧で暴れまわり、“バサバサ”という大きな音を立てながら、風の抵抗をモロに受けてグルグルと回転しながら落下を続けて行く。
“ギェェェェーン!!”
そして今度はよくわからない音が聞こえてくる。
何がどんな風になればあんな音が鳴るのか、全く持って意味不明だが、今はそれどころではない。目が回りそうだ。
“バサバサバサ!!”
髪や服は大暴れで、風の抵抗もあってうまく身動きをとる事が難しい。
それでも何とか、ようやく体勢を一定に保つ事に成功し、私は少しだけ冷静になる。
しかし、落下は止まらない。
どうすればいいのか、限界まで頭をフル回転させるが、当然妙案など浮かぶはずがない。
“ギェェェェーン!!”
その時、また変な音が聞こえてきた。
「なに?さっきから聞こえるこの音。まるで怪獣の鳴き声みたいじゃ……」
なんて立てなくてもいいフラグを立ててしまったその瞬間、あたりが突然暗くなり、私の視界が巨大な影で覆われた。
「え?」
はじめは巨大な雲の影かと思ったが、頭上を見るとそこには、赤い鱗を身に纏った、やたらと大きな翼竜が、翼を広げて飛んでいた。
どうやら先程のバサバサと聴こえていた音は、服や風の音などではなく、翼竜の翼を羽ばたく音だったようだ。
「な、な、な、なんで!?」
翼竜はそのまま頭上を通り過ぎ、その後大きく旋回して私の方へと向き直った。
「ヒィ!?」
私は再び大声を出しそうになったが、大きな音で刺激するのは良くないと考え、両手で口を塞ぎ、なんとか声を押し殺した。
ヤバイ……。めっちゃ目が合ってるんだけど……。
しかもアレ、多分アレだよね?
それは、ゲーム内では割と何処にでも現れていた、新規プレイヤー泣かせで有名な「紅翼竜」と呼ばれるモンスターだった。
瑞々しい赤い鱗に、頭部から生えている漆黒の角。
瞳孔が縦に割れた金色の鋭い目。
遥か昔に存在した恐竜は、きっとこんな感じだったのかもしれない。
このモンスターは神出鬼没で、とにかく何処にでも現れ、近くのプレイヤーに手当たり次第に攻撃を仕掛けまくる。
そして一通り暴れまわると、満足したのか、ただ飽きただけなのか、急に空高くへ飛び上がり、そのまま何処かに行ってしまう。
プレイヤーの間では「通り魔ドラゴン」とも呼ばれ、災害系モンスターとして大いに忌み嫌われていた存在だ。
「だからってこんなタイミングで出て来なくても良くない?」
一応、高レベルパーティーなら1パーティーだけでも十分倒せる程度の強さだが、今の私は1人だ。
それに、いくら私のレベルが99だとは言え、戦闘職ではなく生産職の鍛治師である時点でほぼ勝ち目はない。
しかも、私は今も絶賛落下中。
このまま落ちて死ぬか、紅翼竜に襲われて死ぬか、どちらにしろ絶望しかない。
“ギェェェェーン!!”
どうやら紅翼竜は私を獲物だと判断したらしく、大きく吠えた後、目をギラギラとさせて、口からは涎を垂らしながら私の方へゆっくりと向かって来た。
「うう……あの目は美味しそうな物を見つけた時の目だよね……。あんなのに食べられるとか、マジで勘弁して欲しいんですけど」
どうしよう、いくら生産職とは言え、レベル99のこの体なら、恐らく一撃死はないとは思う。
でも、この世界は現実だ。
たとえ死ななかったとしても、攻撃を受ければダメージを負う。
そしてそれは、当然、めちゃくちゃ痛いはずだ。
痛いのは絶対に嫌だし、それよりも食べられるなんて事になったら最悪もいいところだ。
何とかしないとダメだけど、今の私一人ではとても勝てる気がしない。
「どうすれば……って、え!?」
気づけばもう目の前にまで迫る紅翼竜。
このままじゃ本当にヤバイ……考えなきゃ考えなきゃ考えなきゃ……。
再び頭をフル回転させ、急死に一生を得る方法を捻り出す。
あっ……。
そうか。
そこで、私は一つの事を思いついた。
ここが本当にゲームの中の世界なら。
私のステータスがちゃんと反映されているのなら。
だったら……。
私は、素早く腰に着けられた小さなポーチに手を突っ込む。
「無尽蔵のポーチ、中身は……よし!」
すると、頭の中に所持品リストが展開され、中に入っている装備品や鍛冶道具、その他合成素材がちゃんと入っている事が確認出来た。
「さすがファンタジーの世界!なんでもありだね!」
ゲームならではの便利仕様に驚きながらも、先ほど思いついた一か八かの手段に身を委ねる。
「上手くいくかわからないけど、ここまで来たら出し惜しみ無しだよ!」
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