もう見えない

ポリエチ

第1話 僕の最終回



もう僕は誰からも見られることはない。

でも、僕が彼らを見ることはできる。

だって、僕は終わってるから。


足を踏み出すのが怖い。

一歩また一歩と進むたびに後退りをしたくなる。

止めないでほしい。叫ばないでほしい。

戻りたくなるから。覚悟を決めたのに。悲しくなるから。

冷たい風が吹くから耳が痛い。目が熱くなる。

僕だって、わかってる。バカな逃げなんだって。

でもこうでもしないとダメなんだ!!もう、、。


「やめるんだ!危ないだろ?佐々木、わかってるだろ?」

なだめるようににじり寄ってくる担任に嫌気がさす。

お前も見てみぬふりしてたじゃねぇか。怒りが湧いてくる。

「うるさい!もうやめてくださいよ」

泣きそうな声になる。声が裏返る。同時に緊張と動悸はピークに達した。

窓からの視線が痛くて、騒ぐ声がうるさくて。

「楽になりたいんだ」とぼそっとつぶやいた。

誰にもきこえてないのに。届かないのに。

近づいてくるトラウマに僕は焦りを覚えた。

降りないと、消えないと


足を乗せて仕舞えば後は簡単。

ただそこまで行くのにちょっと。

手を乗せ、力を入れる。汗で柵がしめる。

柵の冷たさがよりいっそう現実だと言うこと教えてくる。

引き返せないから足を乗せて。

止めてくる声は僕を戻らせないようにして後押ししてくる。

だから僕は頭から地面に降りた。

叫び声は聞こえない。

ベランダに駆けでる生徒。教室でふせる生徒。それを心配する生徒。駆け寄る先生。

興奮でみんなが駆け回る。僕を見にきて心配しているふりをする。



肌寒く旅立ちの季節が近づく中、今日僕は終わった。




















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