第36話 デートへ
香澄とデートする日になった。
今日のデートは一緒にショッピングモールを回るという、普通のものだ。
香澄とは中学生くらいから、何回も行ったことがある。
香澄が服を買いたい時、俺が香澄に服を選んでもらいたい時、ゲームセンターに行きたい時、などなど。
何回も行ってるから、特に緊張することはない……はずなのに。
昼過ぎくらいに香澄の家まで迎えに行くと、香澄がすでに家の前で待っていた。
「香澄、お待たせ。待たせてごめん」
「誠也、別に待ってないわ。いつも誠也が二分前に着くから、それに合わせて外に出ただけよ」
「そっか、ありがとう」
「ええ……」
「……じゃあ行こっか」
やはりなんだか二人だと気まずい空気が少し流れる。
二人で駅のほうまで歩き始めたが、香澄は今日もすごい可愛いな。
学校に行く時は髪を下ろしているのだが、今日はポニーテールにしていて、いつもとは違う雰囲気で綺麗だ。
服も黒いパンツに白のニット、上から裾が長い淡い青色のカーディガンを羽織っていて、とても可愛く着こなしている。
いつも可愛いけど、今日はまたより一層可愛い。
「香澄、今日も可愛いね。髪を上げてるのも俺は好きだな」
「……そ、そう、ありがとう。誠也も今日はオシャレしてるわね」
「まあデートだしね。だけどほとんど全部、香澄が選んでくれたやつだけど」
「ん、本当だ。それを思うと、自分で自分の服のコーデを褒めたみたいね」
「香澄が服のセンスがいいのは事実なんだから、別にいいんじゃない?」
「センスがいいのと自分で褒めるのは違うでしょ?」
「そうかな? じゃあ俺が褒めるか。いつも香澄の服は可愛くて綺麗で、俺の服を選ぶ時もすごいセンスいいよ。ありがとう」
「うっ、あ、ありがとう……」
香澄は少し顔を赤くして視線を逸らした。
よし、少しずつ呼び捨てで呼ぶのに慣れてきたかも。
初めての時は本当に恥ずかしくて、香澄を誉めることも出来なかったからな。
だけどいつもならもうちょっと全力で褒めるし、さらにここでプロポーズぐらいはしていたのに。
まだ緊張か慣れてないのか、プロポーズまではいけない。
ここ一週間ほどプロポーズが出来てないから、今日こそは俺もしたい。
前に香澄が不安になっていたというのもあるし、俺も一日一回くらいしないとムズムズする身体になってしまっていた。
そして電車に乗り、ショッピングモールに着いた。
昔からあるショッピングモールだが、ここはいろんなお店がある。
日用品や雑貨が置いてある店、服が買える店はもちろん、ゲームセンターやカラオケ、映画館もある。
一日中ここで時間を潰せるだろう。
「まずどこに行こっか?」
「じゃあ私の服から見ていい? 夏服を買いたくて」
「もちろん」
隣に並んで香澄とお店を回っていく。
香澄がよく行くお店は女性用の服しか置いていないお店で、男の俺が入るのは少し躊躇いがある。
だけど中学生くらいから香澄と一緒に行ってるので、もう慣れた。
「誠也、これとこれ、どっちがいい?」
「色合いは青い方が香澄っぽくて合ってる気がするけど、赤いのも似合ってるし新鮮で可愛いと思うよ」
「うーん、そっか。じゃあ赤いのも試着してみようかな……」
いつも通り、ほとんど香澄が選んで俺が少しだけ聞かれたことを答える、といった感じで買い物をしていく。
香澄は意外と即決して決めるタイプで、軽く試着したらすぐに決める感じだ。
いつまでも「どうしようかなぁ」と悩んだりはしない。
今回も夏服を四着ほど試着して、三着を買った。
「香澄、持つよ」
「ありがとう、誠也」
男の俺が手ぶらで香澄だけ荷物を持たせる、ということはしたくない。
「他にどこか回りたいところある?」
「私はもう大丈夫だけど、誠也は?」
「俺も別にないかな。夏服も去年のものとかあるし」
「そうね……」
「……」
いつものデートでもやることがなくなる、といったことはあるが、ここまで気まずい雰囲気にはならない。
俺が早く呼び捨てに慣れないといけないのだが、なんでこうも慣れないのだろうか。
いや、本当は結構もう慣れているのだ。
まだ少し意識しているけどもう普通に「香澄」と呼べるし、普通に喋れている。
ただいつもと違うのは、まだ告白、プロポーズが出来ていないということだけだ。
なぜ、出来ないのだろう。
呼び捨てでプロポーズすることが、なんでこうも難しいのだろうか。
「……じゃあ誠也、久しぶりにゲーセンでもいかない? 音ゲーとか、いろんなのがあると思うし」
「そ、そうだね。香澄とやるのは久しぶりだね」
「中学生の時はハマってたけど、高校受験から遠かったからね。二年ぶりくらい?」
「そんな経つかぁ。久しぶりだから腕鈍ってないかな?」
「どうでしょうね……ん?」
「あれ、どうしたの、香澄」
いきなり香澄が立ち止まり、振り返った。
「いや、なんか私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたんだけど……」
周りを見渡しても、特に香澄を呼んだような人は見えない。
「気のせいかしら?」
「もしかして名前が一緒だっただけとか?」
「そうかもね」
そんなことを話しながら、俺と香澄はゲーセンへと向かった。
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