第30話 勉強会の続き



 三十分後、勉強を止めて適当に雑談していたところ、母さんの「出来たわよー」という声が聞こえた。


 俺と優香がすぐに動いて、みんなの分の皿を運んでいく。

 みんなも動こうとしていたけど、ここは家族の俺と優香がやらせてもらった。


「おお、ミートスパゲッティか。めっちゃ美味そう」

「本当だねー」

「お母さんは料理だけは上手いので、安心して食べていいですよ!」

「ちょっと優香? 料理だけって何かしらー?」


 母さんはそう言いながら、テレビの前のソファに座ってため息をついた。


「はぁ、久しぶりにこれだけの人数分作ったから、疲れたわ。やっぱり歳はとりたくないわねー」

「真紀さん、ありがとうございます」

「いいのよ、かすみたん。私の娘になってくれればね」

「それはむりです」

「うぅ……疲れた身体に追い討ちでふられたちゃった」


 母さんがソファで落ち込んでいるようだが、俺達は気にせずに食べ始める。

 うん、美味しいな。


「美味っ! めっちゃ美味い!」

「んー、ほんと、お母様、美味しいですよー」

「よかったわー、久しぶりに作って味見もしてなかったから、失敗したらどうしようかと思ってたの。失敗してたら誠也が責任を取ってかすみたんをお嫁にもらうしかなかったわね」

「なっ!? それだったら母さん、失敗してくれよ!」

「あら、本当ね。ごめんなさい、誠也」

「失敗してたとしてもそこまで責任負わなくていいですし、むりです」

「がはっ!?」


 フラれた、母さんの流れ弾をもらった感じだ。


 数十分後、みんな食べ終わり、母さんが嬉しそうにしながら食器洗いをしている。

 キッチンにいるが母さんの顔も普通に見える距離にあるから、キッチンにいる母さんが普通に喋りかけてくる。


「みんな、勉強は大変なのかしら?」

「大変ですよ。俺は誠也からしっかり勉強を教わらないと、絶対に赤点を取っちゃうから」

「私はそこまでじゃないですけど、香澄や誠也くんには負けますねー」

「そうなのねー。私も勉強は得意じゃなかったから、授業中に寝てたりした覚えはあるわよー」

「そうなんですか!? 俺も同じです!」

「だけどテストとかは一晩勉強すれば、だいたい九十点は取れたわね」

「同じじゃなかった……すごすぎる……」

「やっぱり誠也くんのお母様ですねー、血筋をしっかり感じてすごいです」

「誠也はあまり私に似てないけどね、真面目なところとかは特に」


 確かに俺は真面目だとよく言われるが、それは母さんじゃなく父さん似なところだ。


「母さんの不真面目さは、優香に継がれてる部分は多い気がするな」

「確かに優香ちゃんは真紀さん似かも」

「そうね、優香は本当の子供の頃を見ているようだわ」

「……そこまで言われたら少し違うと思うけど。見た目はそうでも、中身は意外とお兄ちゃんに似ているところの方が多いでしょ」

「えっ、どこが?」

「香澄お義姉ちゃんにアタックするところとか」

「それは血筋じゃなくて、俺が香澄ちゃんに惹かれて愛してるだけだ!」

「あとそれだったら優香だって、かすみたんのこと好きでしょ?」

「もちろん! 早く本当の家族になってお義姉ちゃんになって欲しいと思ってるよ!」

「……私から見たら、全員似たもの家族だと思うけど」


 香澄ちゃんにそんなことを言われて、俺達家族は首を傾げた。


 健吾や汐見さんも同意見のようだ、解せぬ。



 昼飯を食べ終わり少し食休みをしてから、また勉強を開始する。

 美味しい昼飯も食べたし、切り替えられて集中出来ていた。


 母さんは自室に戻って、邪魔をしないように適当に過ごしてくれている。


 途中で少しだけ集中が途切れることがあったが、数分の休みを上手く入れながら、十七時くらいまでは結構集中して勉強が出来た。


 そしてもう夕方となったので、少し家が遠い健吾と汐見さんは帰ることになった。


「じゃあな、健吾。数学の公式とか、しっかり復習しないと忘れるから、ちゃんとしとけよ」

「ああ、めんどくさいけどな。せっかく教えてもらったんだからやるよ」

「誠也くん、優香ちゃん、ありがとねー。すごく勉強が捗ったよぉ」

「奈央先輩、またぜひいらしてください!」


 ということで二人は帰っていった。

 香澄ちゃんはもう少し残って、俺と一緒に勉強をしたいと言ってくれた。


「ずっと優香ちゃんの方につきっきりでやってたんだけど、私も数学が少しわからないところがあったから、誠也に教えてもらおうと思って」

「すいません香澄お義姉ちゃん、私のせいで……」

「いや大丈夫だよ。優香ちゃんに教えてなくても、少し不安なところを誠也に教えてもらおうとしてたから」


 俺も今日は健吾や汐見さんに教えていたから、香澄ちゃんには教えられなかった。


「じゃあリビングでこのまま……」


 そう言いながらリビングに戻ると、母さんがソファに座ってテレビを見ていた。


「あら、香澄ちゃんはまだ一緒に勉強するの?」

「あ、はい。誠也にわからないところを教えてもらおうと思って」

「ふーん、偉いのね……はっ!」


 母さんは何か思いついたかのようにニヤッとした。


「あー、だけどそうねー、私はこれからリビングでその、いろいろとやらないといけないことがあるから、リビングは申し訳ないけど使えないわよ」

「えっ、母さんが何するの?」

「えっと……テレビを見るのよ」

「それなら母さんと父さんの部屋でも見れるじゃん」

「こ、こっちのテレビでしか録画してないものがあるのよ。だから悪いけどリビングは使えないわ」


 そうして母さんがチラッと優香の方を見る。


「はっ、そういうことか……! わ、私もやることがあるから、自分の部屋に戻ろっかなぁ」

「やることって、勉強しろよ」

「う、うん! そうだね! 一人で集中して勉強しないといけないから!」


 よくわからないが、リビングが使えないとして、優香も一人で部屋にこもって勉強をするとしたら……空いてる部屋は。


「香澄ちゃん、俺の部屋でもいい?」

「……いいけど」


 香澄ちゃんはジト目で母さんと優香を睨んでいた。


「ど、どうしたのかすみたん?」

「そうだよ香澄お義姉ちゃん、早くお兄ちゃんの部屋で二人きりで、勉強を教えてもらってきてね」

「……意図がわかりやすいですね。まあそういう嘘をつけない家族というのは知ってましたけど」

「な、何を言ってるのかなぁ、ねえ優香」

「そうだねぇ、お母さん」


 うーん、俺には本当に何を言ってるのかよくわからない。


「二階の物音はリビングには全く聞こえてこないから、どれだけ騒いでも大丈夫よ!」

「隣の部屋だけど壁は厚いから、どれだけギシギシいっても聞こえないと思う! 声をあげれば耳を澄ませるけど!」

「な、何もしませんから! 静かに勉強するだけですから! あと優香ちゃんはしっかり音楽でも聞きながら勉強でもしてなさい!」

「えっ、つまり音楽を聞いてないと、ナニかが隣の部屋から聞こえちゃうってこと……?」

「違う!」


 よくわからないけど、みんなが楽しそうでいいな。


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