第22話 ローラースケート



 優香は普通に滑っていて楽しそうだ。

 片足で滑ることをチャレンジして転んでるけど。


「香澄ちゃん、大丈夫? 滑るのやめる? 派手に転んだら痛いし危ないと思うから、外で見ててもいいと思うけど」

「そ、そうしようかしら……」

「そうだね、じゃあ俺も外で一緒に見てようかな」

「誠也は、普通に滑れるんだから、優香ちゃん達と一緒に遊んできなさいよ」

「だけど……」

「いいから、私は放っておいて、楽しんできて」


 香澄ちゃんはそう言って笑ってから、壁を伝って外に出ようとする。

 うーん、俺のことを気遣ってくれたのは嬉しいけど……。


 そう思って俺は香澄ちゃんの目の前に回り込んだ。


「香澄ちゃん、やっぱり俺も外に出るよ」

「だから、私は放って楽しんできてって」

「ううん、俺は香澄ちゃんを放っておいて楽しめるような器用な男じゃないからさ。香澄ちゃんと一緒じゃないと、全力で楽しめないから」

「っ……」

「だから香澄ちゃんと一緒に外で見てた方が絶対に俺は楽しいから」

「……そ、そう」

「ん? 香澄ちゃん、頬が赤くなってるけど、どこかぶつけた? まだ転んでなかったよね?」

「し、知らない!」


 なぜかちょっと怒ったようにそう言う香澄ちゃん。

 どこかにぶつけてないならいいけど。


「……じゃあ誠也、私のスケートに付き合ってくれる?」

「えっ、大丈夫? 外で見るんじゃないの?」

「それは、その、誠也の邪魔をするくらいなら外で見てるって意味で……本当は、一緒にスケートしたいから」


 さっきよりも顔を赤くしながらそう言った香澄ちゃん。

 俺もその言葉に嬉しくなり、思わず笑みがこぼれる。


「な、なんで笑ってるのよ」

「ううん、やっぱり香澄ちゃんは可愛いなって思って」

「うっ……そ、それでいいの? 付き合ってくれる?」

「もちろん、付き合うよ」

「ありがと……!? いや、ちょっと待って、今の付き合うっていうのはあれよ!? スケートに付き合ってっていう意味だからね!?」

「えっ、それ以外に何かあるの?」

「……え、ええ、そうね。そうよね、それ以外には意味はないわ」


 いきなり焦ったと思いきや、すぐに落ち着いた香澄ちゃん。

 よくわからないけど、俺と香澄ちゃんはまたスケートリングに立って練習を始める。


「じゃあ香澄ちゃん、俺が両手を持っててあげるから、とりあえずその状態で滑る感覚を覚えようか」

「ええ、ありがとう」


 香澄ちゃんの前に俺が立って、両手を握って支えてあげる。

 ……手が小さい、柔らかい、可愛い。


 はっ、いけないけない、しっかり集中しないと香澄ちゃんを転ばせてしまう。


「大丈夫? これでちょっと滑ろうか」

「ええ……というか誠也、あなたも大丈夫なの? 完全に後ろ向きで滑ってるけど」

「ん? ああ、俺は大丈夫だよ。初めてやったけど出来るみたいだから」

「……そう、さすがね」


 あれ、少し落ち込んじゃった?

 別にこのくらい出来て普通だと思うけど。


 とりあえずゆっくり、香澄ちゃんと手を繋いだまま一緒に滑った。


 俺は後ろ向きなので周りをいつも以上に確認しながら、誰とも当たらないように香澄ちゃんの手を引っ張る。


「あっ……!」


 香澄ちゃんがバランスを崩して転びそうになった瞬間、俺が強めに引っ張る。

 引っ張ったから香澄ちゃんが転ぶのは防げたけど、代わりに俺とかすみちゃんの距離がゼロになり……というか抱きつくような感じになった。


「ご、ごめん、誠也。ありがとう」

「う、うん、大丈夫だよ」


 これは、なかなか心臓に悪い……!

 香澄ちゃんが転びそうになったら絶対に俺が引っ張らないといけないんだけど、そうすると必然的に俺と香澄ちゃんの距離がゼロになってしまう。


 手を触れているだけでめちゃくちゃドキドキするのに、このまま何回も抱きついていたら心臓が破裂してしまうんじゃないだろうか。


「その、支えてもらってるのに、転んでごめん」

「大丈夫、そのために支えてるんだから。何回でも転んでも、俺が絶対に受け止めてあげるから」

「っ……あ、ありがと」


 顔を真っ赤に染めながら、視線を逸らして礼を言う香澄ちゃん。


「……香澄ちゃん、ちょっと可愛すぎるから、可愛さを抑えてもらってもいい?」

「な、なに言って……!」

「そうしないと俺が心臓麻痺で倒れそうだ」

「た、倒れちゃダメだからね?」


 倒れるのが怖いのか、香澄ちゃんは涙目で俺のことを見上げてくる。


 くっ、だからその可愛い顔をやめてほしいって言ってるんだけど……!

 いやだけど香澄ちゃんは元からずっと可愛いから、それは無理な話か。


 俺と香澄ちゃんが手を繋いで滑っていると、少し遠くの方で優香達がこっちを見ているのがわかった。


「お兄ちゃん達、いちゃついてるなぁ。ふふっ、計算通り……!」

「えっ、優香さん、あれを狙ってたのか? 策士だな」

「優香ちゃん、本当はー?」

「ローラースケートで遊びたかっただけです!」

「嘘なのかよ」

「ふふっ、だけどあの二人も楽しそうでよかったねぇ」

「はい! 結果オーライです! あのまま香澄お義姉ちゃんが倒れるフリ……まあフリじゃないかもしれないけど、お兄ちゃんを押し倒してラッキースケベに発展すれば嬉しいけど……」

「優香さん、そんなこと考えてんの? 本当に誠也の妹?」

「うーん、だけど誠也くんは運動神経がいいから、倒れることはないんじゃない?」

「そうなんですよ。お兄ちゃんは無駄に運動出来るから、香澄お義姉ちゃんが体勢崩したくらいじゃ絶対に倒れないんですよねー。私がお兄ちゃんの背中を蹴ればいいんですかね?」

「奈央を参考にするのはやめといた方がいいぞ」

「私ほどいい女もいないと思うけど?」

「見た目だけな、中身はカスすぎるだろ」

「じゃあ小林先輩は、奈央先輩の容姿はめちゃくちゃ良いって思ってるんですか?」

「えっ!? あ、いや、そういうわけじゃ……!」

「へー、そうなんだぁ。健吾、私の見た目がタイプなんだぁ」

「ち、違う! 今のは言葉のあやで……!」


 うん、あちらも楽しそうだ。


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